もしも見つけたならば アルバ・シモネス(ポルトガル)訳:山田リオ
もしも見つけたならば、教えてあげよう
失った時間と、去って行った魂のことを
人生という逆流のなかで
もしも見つけたならば・・・
自分を待っているのだろうか
自分を捜しているのだろうか
あの無数の境界線のせいで
わたしは、あのエロスを見逃していた
風は吹き、光は失われ
わたしは眠りに落ちた
すべては結局、徒労なのか?
誘惑というゲームの中で
神話は失われ、苦しみ、そして明らかになる・・・
すべては、徒労なのか?
二度と取り戻せない人生
時間という名の宇宙塵の中で
もうとっくにわたしではなくなってしまったものが
夜明けという名の腕に抱かれ
いま、魅惑だけがわたしの夢のなかに残された
でも、あなたの顔を思い出せない
あの清らかで、ナイーヴで、言葉にするにはあまりにも不純な
あの、あなたの顔を、思い出すことができない
(All rights reserved 、2010 Rio Yamada このHPの全ての記事は著作権法によってコピー、転載を禁止されています。)
■2010/07/30 (金) やまゆりがさいている |
「やまゆりがさいている」 木村信子
やまゆりそれは
老婆がわすれた絵ひがさ
青色人神が
星牢のなかで泣いている
むしかえすたびむし歯がおこる痴わげんか
てんき雨がしみてゆく時間
てんてけてんてんてけてん
という調子に狂ってゆく
草の上で
はだかで草をむしってたべている村びと
もうこの村へ帰ってくることはできないと思っていたのに
てんてけてんてんてけてん
わたしはじぶんのためにじぶんで調子をとる
やまゆりがさいている
その花の下にすわって
食事をはじめる
わたしのからだがだんだん
青くなってゆく明るい時間
■2010/07/22 (木) 「小さい男」 |
「小さい男」 小柳玲子
朝 名前もつけられない小さな男が一ぴき 私の歯の中から冬の中
に出ていった。彼は歯科医のうがい台の中 その細い管の奥へまぎ
れてしまったので 私はわざわざ呼びとめなかった。その後男をみ
かけないので この小さい男の物語は終りになった。「顔はどうだ
ったか」と友達はきくが――顔があったかどうか思い出せない。そ
れに思い出しても一向に役に立たないことを思い出すのは何とも苛
苛するではないか。
もっともある夕方 枕もとの水薬の中 あのうす青いビンの底に
あの男がいた「私でしょうが いつかの男は」と彼は自分の鼻を指
しながら言った。だけど私は高熱のため脂汗をしぼって呻いていた
ので思わず「バカバカ」と怒鳴ってしまった。おまけに「あんな男
の話は嘘にきまってるだろ」なんて本音を吐いてしまったのだ。
■2010/07/20 (火) 「見えている部分・いちにち」 |
「見えている部分・いちにち」 小柳玲子
めまいに似た夏の朝
ペチュニアの真紅を植える
街は急に白いビルが多くなり
従妹たちはよく笑う
ホテルのプールは花みたい……
ね? などとはしゃぎあう
角の雑貨屋ばかりが
どうしてだか私には鮮明に見える
店先に忠雄伯父がよく呉れた
デンキ花火が出ている
夜更けて伯父は西の街へ還ったものだ
戦争があって、さらに遠く
永劫の方へ還っていった。
「マシュマロ、買おう」
「あら、ボンボンの方がいヽ」
地下街の仏蘭西菓子店で
従妹たちの
匂うような、レースのような
おしゃべりをきいている
雲が湧き
傾斜はくらいと思う
喉の奥の深い傾斜のことだ
焼けてしまった、あの二階家が
そんな深さに未だ在って
乏しい灯が入ると
兄やわたしや
かぼちゃの皿を囲んだ。
夕食だった。
テレビが海水浴のニュースを始める
みがいたキッチンに佇つと
こんな無益な孤りの果に
単純な夜が落ちてくるのが
不思議だ、と
夏の、さびしい魚たちを
鍋に入れる
■2010/07/18 (日) 「新生児」 再録 |
新生児
山田リオ
声に出して読まれなかった詩は
演奏されない楽譜のようです
それは
生まれなかった赤ん坊です
あなたが声に出して読んでくださることで
はじめて
詩は命を得ます
あなたが声に出して読んでくださるたびに
何度でも
詩は新生児となって
この世に生まれ出るのです
(All rights reserved 、2008Rio Yamada
このHPの全ての記事は著作権法によってコピー、転載を禁止されています。)
■2010/07/11 (日) 雨 尾形亀之助 |
「小さな庭」 尾形亀之助(1900-1942)
もはや夕暮れ近い頃である
一日中雨が降つてゐた
泣いてゐる松の木であつた
「雨日」
午後になると毎日のやうに雨が降る
今日の昼もずいぶんながかつた
なんといふこともなく泣きたくさへなつてゐた
「雨の祭日」
雨が降ると
街はセメントの匂ひが漂ふ
「雨が降る」
夜の雨は音をたてゝ降つてゐる
外は暗いだらう
窓を開けても雨は止むまい
部屋の中は内から窓を閉ざしてゐる
■2010/07/05 (月) 「運命に導かれ」 |
「運命に導かれ」 Destinos Traçados.
アルバ・シモネス(現代ポルトガルの女流画家)山田リオ訳
足跡は残された
昼も夜も、月も世紀も
数々の顔も、そして皺も
愛は弓
運命に導かれ
未来に向かって
開かれたドアを通り抜け
でも、ああそのドアは、違う、でもみんなは、なんて自信満々なんだ
まっすぐな、あるいは歪んだ道でも?
おそらくは・・・
小道を歩き、通りを渡って、大通りを駆け抜ける、塀の上だって・・
誰なんだ?
大きな舞台と橋との間に、たくさんの塔が調和して
この人生で、わたしは、いつも一人取り残される、魂はいつも不安だから
みんな警告する、そして、情熱は爆破する
でもわたしが見つけた、この愛、には危険というものが、ない
ただ、生き延びることのリスクがあるだけ
この庭の生垣の中、裸足の少年が忍び足で進む
わたしの、星の案内人だ
(All rights reserved 、2010 Rio Yamada このHPの全ての記事は著作権法によってコピー、転載を禁止されています。)
■2010/07/02 (金) 遠ざかるスケートボード |
0 件のコメント:
コメントを投稿