2014年6月17日火曜日

尾崎放哉 ⑨


              尾崎放哉(1885-1926)
               (おざきほうさい、無季自由律俳句)

流るる風に押され行き海に出る

海がまつ青な昼の床屋にはいる

皆働きに出てしまひ障子あけた儘の家

言ふ事があまり多くてだまつて居る

古足袋のみんな片足ばかり

鐘ついて去る鐘の余韻の中
 

炎天の底の蟻等ばかりの世となり
 

雨に降りつめられて暮るる外なし御堂
 

雨の幾日かつづき雀と見てゐる
 

降る雨庭に流をつくり侘び居る
 

何も忘れた気で夏帽をかぶつて
 

雀のあたたかさを握るはなしてやる
 

曇り日の落葉掃ききれぬ一人である
 

きたない下駄ぬいで法話の灯に遠く坐る
 

ゆるい鼻緒の下駄で雪道あるきつづける
 

久し振りの雨の雨だれの音
                   尾崎放哉
(1885-1926)

2014年6月9日月曜日

眠り(第二部)


               山田リオ

あれから、しばらくの間
だれに肩を貸すこともなく
電車に乗ったりしていたのだが
今朝、しばらくぶりで、動きがあった

早朝、六時すぎ、電車に乗り
空席があったので、そこに座った
わたしのすぐ右にはドアがあって
左には、中学生の女の子が一名

その中学生の、うつむいた頭が
重そうに前に垂れ、それから右に傾き
わたしの肩にではなく、左上腕の前側に触れると
はっと気がついて、体勢を立て直した

しかし、眠気には勝てないらしく
二度、三度、抵抗したあとで、とうとう
あきらめたように、頭の重みを
わたしの左腕に預けてきた

それは、やわらかく、おだやかな重みで
彼女の眠りもまた、おだやかなものだったので
その眠りを受け止めているわたしもまた
同じように、やさしい気持ちになった

電車はやがて、目的の駅につき
わたしは立ち上がって、ドアに向かった
すると、眠っていた少女も立ち上がり
わたしのあとから降りるようだったが
そのあとのことは、知らない。
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2014年6月6日金曜日

雨音


              山田リオ

一晩中、雨の音が聞こえていた
それを聞きながら
ああ

いいな
これを聞くために
ぼくは生きていたんだな
これを聞くために
ぼくは帰ってきたんだなって
そう思った

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PS 写真の左手奥、遠ざかって行く黒い後ろ姿のあなたは、だれ? 

2014年6月1日日曜日

自由律短歌



                      山田リオ


ゲームもラインもしない黒い画面のケータイよ

おまえはわたしを支配できない
 

バス停で知らない人と笑って世間話する自分
は友達がいない
 

どの車両にもいる狂人を避け
混んでいるほうを選べ忘れるな
 

自分のツイートをお気に入りに、
自分で自分にDMする
だれにも見せないツイッター
 

自転車が怖いから裏道を歩く
自転車が来たらもっと裏道へ逃げる
 

戦争はゲームとネットと映画の中
ほんとうに恐ろしいのは、あ。た。ま。
 

キャパみたいに愛して旅して
一発でコナゴナになって死ねたら           

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