2015年2月23日月曜日

Without Wings

                         山田リオCopyright ©2015RioYamada
一日ごとに、すこしずつ
風の匂いが変わり
羽に触れる空気の感触
土、草木、そういうものが
動き出そうとする、その前に
鳥のなかで、なにかが蠢き始める
なにを思うというわけでもなく
わけのわからないものに突き動かされ
鳥は飛び立って
はるか遠くのどこかへ向かって翔んでゆく
鳥はいつでもそれができる
鳥は身一つだから、翼があるから
鞄もバッグも袋もポケットもリュックも財布も
家も財産も家具も蔵書もなにもないから
ひとり、どこか遠くのほうへ
翔んでゆくことができる

人は、なかなか、それができない
財産と言う名の粗大ゴミや
燃えるゴミ、燃えないゴミ、資源ゴミ、
クズ、ガラクタ、名前のつけられない
数え切れないモノたちから
人は自分を引き剥がせないから
なかなか飛び立つ機会がないまま
食い、眠り、老いていく

それでも、時が来て
風の匂いが変わり
歩む地面の感触が変わり
住む世のトポロジーが歪み始め
そして、とうとう、その日が来ると
人もまた、鳥とおなじように
旅立つ
ほんとうに一人で
何一つ持たず
全てのゴミ、クズ、ガラクタを後に残して
裸体で旅立ってゆくわたしたちは
翼のない鳥のようだ
 Copyright ©2015RioYamada

2015年2月13日金曜日

藤山直樹

花の色染みたる脳の朝寝かな

ゆふざくら逢うてたちまち眠るなり

写真焼く焔むらさき春の暮

猫死んで桜月極駐車場

桜餅餡透けて雨兆すなり

思ひ寝のあと草餅のやはらかき

草餅の雨の匂ひのしてゐたり

梅雨寒や高座布団の芯かたき

薔薇切って空気いきなり濃くなりぬ

衰へて明るき脳や葱の花                                        

さびしさや焼蛤の噴きこぼれ                                          


焼飯の卵おだやか海の家

オルガンの音ずれてゐる暑さかな

蝉の穴鬱の極みも過ぎにけり

病む人の爪透きとほるしらが葱

寒鯉に纏はる水の粘りかな

遠くまで行く切符なり冬の雲

紙ほどの薄さのこゑの冬鴎

抽斗の闇の矩形の寒さかな

                      藤山直樹(1953-)

2015年2月12日木曜日

安住 敦 ①

夕ざくら子の手冷たくわが手にあり
 

しぐるるや駅に西口東口
 

小でまりの愁ふる雨となりにけり
 

梅雨の犬で氏も素性もなかりけり
 

あさがほをだまって蒔いてをりしかな
 

鶏頭を水無き壷に挿して忘る
 

蓑虫の出来そこなひの蓑なりけり
 

柿啖へばわがをんな少年のごとし
 

耐へがたきまで蓮枯れてゐたりけり

            安住 敦(あずみ あつし、1907-1988)

          

2015年2月9日月曜日

猫 (俳句)

 
猫の子のすぐ食べやめて泣くことに
口あけて一声づつの仔猫泣く    

                      中村汀女
 

みごもりて盗みて食いて猫走る
いなずまの野より帰りし猫を抱く  

                      橋本多佳子
 

うららかや猫にものいふ妻のこゑ 
                      日野草城
 

四つ足の堪へるあゆみの仔猫かな 
                      藤後左右
 

叱られて目をつぶる猫春隣  
                      久保田万太郎
 

猫の飯相伴するや雀の子
                      小林一茶
 


露のんで猫の白さの極まるなり
猫と生まれ人間と生まれ露に歩す 

死ににゆく猫に真青の薄原*
                      加藤楸邨  *薄原(すすきはら)

2015年2月5日木曜日

 

雪の降る芝居哀しく美しく 

       初代中村吉右衛門(1886-1954)