2017年7月29日土曜日

詩日記: 坂正義 2009/04/10

詩日記: 坂正義 2009/04/10


駅前で 「ビッグイシュー」という雑誌を売っている
ホームレスの 知り合いができた
ときどき そのおじさんから ビッグイシューを買って 

彼と すこしだけ 立ち話をする
そういう風に 少しでも 話せる人がいるのは
話す相手がいるのは ありがたいと思う
お互いの過去を まったく知らないことも ありがたい
 

いつか ぼくが 誰とも話すことがなくなったら
そう思うと おそろしくなる
すくなくとも 今は 日記を読んでくれる人がいる
どこかに そういうふうに つながっている人がいるのは
とんでもなく 幸運なことだなあ と思う
                      山田

2017年7月17日月曜日

小島ゆかり


「ここからはひとりで行くわ」あの夏のわたしは誰に言つたのでせう

しばしばもわれに虚ろのときありぬうしろにかならず猫が来てゐる

転院しまた転院しわが父の居場所この世にもう無きごとし

今しがた落ちし椿を感じつつ落ちぬ椿のぢつと咲きをり


帰り来し夫の背後に紺青の夜あり水のにほひをもちて

夏みかんのなかに小さき祖母が居て涼しいからここへおいでと言へり

蟬はもう何かに気づき早く早く生ききつてそして死にきれと鳴く

街はもうポインセチアのころとなり生老病死みな火と思ふ

                                                                                     小島ゆかり(1956 -)

2017年7月10日月曜日

それぞれに



                   山田リオ

散歩していて出会った、ノコギリクワガタ。
とても小さかった、ノコギリクワガタ。

「商品」でも、「飼い殺し」でもない、
自由な、ノコギリクワガタ。
しばらく指にとまってから、翔び立って行った。
クワガタにはクワガタの、ぼくにはぼくの、
短いけれど、それぞれに、残された時間がある。


 
(小学生のころの記憶で、ミヤマクワガタと思っていたら、ノコギリクワガタのようです。ちゃんと調べてから書くもんですね汗)

2017年7月8日土曜日

八木重吉 ③




窓をあけて雨をみていると
なんにも要らないから
こうしておだやかなきもちでいたいとおもう



ながい間からだが悪るく
うつむいて歩いてきたら
夕陽につつまれたひとつの小石がころがっていた

無題

ナーニ 死ぬものかと
児の髪の毛をなぜてやった

麗日

桃子
また外へ出て
赤い茨の実をとって来ようか

故郷

心のくらい日に
ふるさとは祭のようにあかるんでおもわれる

ひかる人

私をぬぐうてしまい
そこのとこへひかるような人をたたせたい

あさがお

あさがおを 見
死をおもい
はかなきことをおもい

                   八木 重吉(1898 - 1927)

2017年7月5日水曜日

マルメロの陽光


友人が「マルメロの陽光」,"El sol del Membrillo"というスペイン映画を教えてくれました。
すごく気に入って、これからも繰り返し見ることになると思います。
マルメロですが、日本では花梨、かりん、ですね。


スペイン語では、Membrillo、メンブリージョと言います。
うちの近所の路上に、この花梨の木があって、夏の終わりには、ちゃんと実がなります。

スペインでは、このメンブリージョ、マルメロの実でようかんのようなものを作ります。
それで、スペインでは極めて大切なチーズ、「国チーズ」とも言えるような、Queso Manchego、マンチェゴ・チーズというのを食べるんですが、そして、このチーズを食べる時には、必ず、儀式の様に、このマルメロのメンブリージョようかんといっしょに食べます。
これは、マルメロの実の上品な甘さと、かすかな酸味が、塩味のチーズと 完璧に合って、たまりません。スペインの人たちにとって、そのくらい、このチーズとようかんは大切なものなんですね。
スペインの料理屋では、必ずと言っていいほど、この組み合わせを出すことが不文律になっているそうです。

でも、日本では、悲しいことに、このマンチェゴ・チーズを出してくれる店は非常に少なくて、したがって、スペイン料理の店で、「メンブリージョをくれ」といっても「それなに??」ということに。

で、さっきの、あの映画の題名が「マルメロの陽光」になっているのは、
今書いたような、そういう意味もこもっているんだろうな、と、勝手に思っています。
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パンと水

パンと水(タンゴ)
     エンリケカディカモ(アルゼンチン、1900-1999)訳:山田リオ

古い 悲しい記憶のなかから
過ぎ去った日々が 起き上がってくる 
どれだけの歳月が 過ぎ去っただろう
まるで 昨日のことのよう
わたしの愛したものは 今 どこにある?
わたしが失ったものは?
思い出は 悲しみを連れてくる
その悲しみは いつまでも 消えない

パレルモ・ヴィエホ だったか
心に 蘇える
今はもういな 友人たち
思い出す・・
あのヴェランダで過ごした 夕暮れ
喜びと幸せにあふれた 夜々
シャンパングラスの間から聞こえた
あのタンゴが 今また 聞こえる

「パンと水」・・
遠くのほうから聞こえてくる あのタンゴが
耳に やさしく響く
なつかしい 感傷的な余韻

なによりも大切 あのタンゴを奪った
そして あなたのことも 奪い去って行った
あの嵐が 今また 思い出を連れてくる
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