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2019年4月25日木曜日

尾形亀之助 ⑤

 
雨の祭日

雨が降ると
街はセメントの匂ひが漂ふ

雨が降る

夜の雨は音をたてゝ降つてゐる
外は暗いだらう
窓を開けても雨は止むまい
部屋の中は内から窓を閉ざしてゐる


うす曇る日

私は今日は
私のそばを通る人にはそつと気もちだけのおじぎをします
丁度その人が通りすぎるとき
その人の踵のところを見るやうに

静かに
本のページを握つたままかるく眼をつぶつて
首をたれます

うす曇る日は
私は早く窓をしめてしまひます

無題詩


ある詩の話では
毛を一本手のひらに落してみたといふのです
そして
手のひらの感想をたたいてみたら
手のひらは知らないふりをしてゐたと云ふのですと

無題詩

から壜の中は
曇天のやうな陽気でいつぱいだ

ま昼の原を掘る男のあくびだ

昔――
空びんの中に祭りがあつたのだ



三十になれば――
そんなことを思ひつづけて暮らしてしまつた
一日

ずつと年下の弟にわけもなくうらぎられて
あとは 口ひとつきかずに白靴を赤く染めかへるのに半日もかかつて
何を考へるではなしいつしんに靴をみがいてゐたんだ

そして夜は雨降りだ


                                   尾形亀之助 (1900 - 1942)

2018年12月5日水曜日

雨 尾形亀之助⑦

雨日

午後になると毎日のやうに雨が降る
今日の昼もずいぶんながかつた
なんといふこともなく泣きたくさへなつてゐた

雨の祭日

雨が降ると
街はセメントの匂ひが漂ふ

雨が降る

夜の雨は音をたてゝ降つてゐる
外は暗いだらう
窓を開けても雨は止むまい
部屋の中は内から窓を閉ざしてゐる


                    尾形亀之助(1900-1942)

2018年10月5日金曜日

尾形亀之助

      彼の居ない部屋

部屋には洋服がかかつてゐた

右肩をさげて
ぼたんをはづして
壁によりかかつてゐた

それは
行列の中の一人のやうなさびしさがあつた
そして
壁の中にとけこんでゆきさうな不安が隠れてゐた

私は いつも
彼のかけてゐる椅子に坐つてお化けにとりまかれた

                              尾形亀之助1900-1942)



                                    

2018年7月6日金曜日

尾形亀之助

                            (1900-1942)
曇天

遠くの停車場では
青いシルクハツトを被つた人達でいつぱいだ

晴れてはゐてもそのために
どこかしらごみごみしく
無口な人達ではあるがさはがしく
うす暗い停車場は
いつそう暗い

美くしい人達は
顔を見合せてゐるらしい

無題詩

ある詩の話では
毛を一本手のひらに落してみたといふのです
そして
手のひらの感想をたたいてみたら
手のひらは知らないふりをしてゐたと云ふのですと

春の街の飾窓

顔をかくしてゐるのは誰です

私の知つてゐる人ではないと思ふのですが
その人は私を知つてゐさうです

無題詩

から壜の中は
曇天のやうな陽気でいつぱいだ

ま昼の原を掘る男のあくびだ

昔――
空びんの中に祭りがあつたのだ

                                    尾形亀之助(1900-1942)

2016年3月26日土曜日

尾形亀之助 ⑥

                                    
                 尾形亀之助(1900-1942)


(仮題)

あまり夜が更けると
私は電燈を消しそびれてしまふ
そして 机の上の水仙を見てゐることがある

****************

夜の部屋

静かに炭をついでゐて淋しくなつた
夜が更けてゐた

眼が見えない

ま夜中よ

このま暗な部屋に眼をさましてゐて
蒲団の中で動かしてゐる足が私の何なのかがわからない

2016年2月18日木曜日

尾形亀之助 ⑤

 
雨の祭日

雨が降ると
街はセメントの匂ひが漂ふ

雨が降る

夜の雨は音をたてゝ降つてゐる
外は暗いだらう
窓を開けても雨は止むまい
部屋の中は内から窓を閉ざしてゐる


うす曇る日

私は今日は
私のそばを通る人にはそつと気もちだけのおじぎをします
丁度その人が通りすぎるとき
その人の踵のところを見るやうに

静かに
本のページを握つたままかるく眼をつぶつて
首をたれます

うす曇る日は
私は早く窓をしめてしまひます

無題詩


ある詩の話では
毛を一本手のひらに落してみたといふのです
そして
手のひらの感想をたたいてみたら
手のひらは知らないふりをしてゐたと云ふのですと

無題詩

から壜の中は
曇天のやうな陽気でいつぱいだ

ま昼の原を掘る男のあくびだ

昔――
空びんの中に祭りがあつたのだ



三十になれば――
そんなことを思ひつづけて暮らしてしまつた
一日

ずつと年下の弟にわけもなくうらぎられて
あとは 口ひとつきかずに白靴を赤く染めかへるのに半日もかかつて
何を考へるではなしいつしんに靴をみがいてゐたんだ

そして夜は雨降りだ


                                   尾形亀之助 (1900 - 1942)

2014年7月6日日曜日

尾形亀之助  ④

■2010/06/14 (月)

「雨」                尾形亀之助(1900-1942)

四日も雨だ――
それでも松の葉はとんがり

「九月の詩」

昼寝
かうばしい本のにほひ
おばけが鏡をのぞいてゐた

「十二月の路」

のつぺりと私をたいらにする影はいつたい何です
蝶のかげでせうか
それとも 少女の微笑なのかしら
晴れた十二月の路に
私のかげは潰されたよりずつと平らです

2014年3月19日水曜日

尾形亀之助 ③

                                   
                 尾形亀之助(1900-1942)

無題詩
Rio Yamada photo 
昨夜 私はなかなか眠れなかつた
そして
湿つた蚊帳の中に雨の匂ひをかいでゐた
夜はラシヤのやうに厚く
私は自分の寝てゐるのを見てゐた

それからよほど夜るおそくなつてから
夢で さびしい男に追はれてゐた



うす曇る日  

私は今日は
私のそばを通る人にはそつと気もちだけのおじぎをします
丁度その人が通りすぎるとき
その人の踵のところを見るやうに

静かに
本のページを握つたままかるく眼をつぶつて
首をたれます

うす曇る日は
私は早く窓をしめてしまひます




小石川の風景詩


電柱と
尖つた屋根と


灰色の家



新らしいむぎわら帽子と
石の上に座る乞食

たそがれどきの
赤い火事



情慾
何んでも私がすばらしく大きい立派な橋を渡りかけてゐました ら――
向ふ側から猫が渡つて来ました
私は ここで猫に出逢つてはと思ふと

さう思つたことが橋のきげんをそこねて
するすると一本橋のやうに細くなつてしまひました

そして
気がつくと私はその一本橋の上で
びつしよりぬれた猫に何か話しかけられてゐました
そして猫には
すきをみては私の足にまきつこうとするそぶりがあるのです


小さな庭            
     
もはや夕暮れ近い頃である
一日中雨が降つてゐた
泣いてゐる松の木であつた

雨日

午後になると毎日のやうに雨が降る
今日の昼もずいぶんながかつた
なんといふこともなく泣きたくさへなつてゐた

雨の祭日

雨が降ると
街はセメントの匂ひが漂ふ

雨が降る

夜の雨は音をたてゝ降つてゐる
外は暗いだらう
窓を開けても雨は止むまい
部屋の中は内から窓を閉ざしてゐる


2012年11月11日日曜日

尾形亀之助 ②

                        尾形亀之助(1900-1942)

昼の部屋

テーブルの上の皿に

りんごとみかんとばなな ―― と

昼の

部屋の中は
ガラス窓の中にゼリーのやうにかたまつてゐる

一人 ―― 部屋の隅に

人がゐる



 商に就いての答

もしも私が商(あきなひ)をするとすれば

午前中は下駄屋をやります
そして
美しい娘に卵形の下駄に赤い緒をたててやります

午後の甘まつたるい退屈な時間を

夕方まで化粧店を開きます
そして
ねんいりに美しい顔に化粧をしてやります
うまいところにほくろを入れて 紅もさします
それでも夕方までにはしあげをして
あとは腕をくんで一時間か二時間を一緒に散歩に出かけます

夜は

花や星で飾つた恋文の夜店を出して
恋をする美しい女に高く売りつけます



女の顔は大きい

私は馬車の中で

妻を盗まれた男から話をしかけられてゐる

だんだん話を聞いてゐるうちに

妻を盗まれたのはどうも私であるらしい

で ――

それはほんのちよつと前のことだとその男が云ふのでした

×


私は いつのまに馬車を降りたのか

妻の顔を恥かしそうに見てゐました

2012年9月29日土曜日

尾形亀之助 ①

■2008/08/17 (日) 
            尾形亀之助(1900~1942)
「無題詩」
 

夜になると訪ねてくるものがある

気づいて見ると
なるほど毎夜訪ねてくる変んなものがある

それは ごく細い髪の毛か
さもなければ遠くの方で土を堀りかへす指だ

さびしいのだ
さびしいから訪ねて来るのだ

訪ねて来てもそのまま消えてしまつて
いつも私の部屋にゐる私一人だ

****************************

「彼の居ない部屋」
           
部屋には洋服がかかつてゐた

右肩をさげて
ぼたんをはづして
壁によりかかつてゐた

それは
行列の中の一人のやうなさびしさがあつた
そして
壁の中にとけこんでゆきさうな不安が隠れてゐた

私は いつも
彼のかけてゐる椅子に坐つてお化けにとりまかれた

*******************************

「夜の花をもつ少女と私」          

眠い――
夜の花の香りに私はすつかり疲れてしまつた

××
これから夢です

もうとうに舞台も出来てゐる
役者もそろつてゐる
あとはベルさえなれば直ぐにも初まるのです

べルをならすのは誰れです
××

夜の花をもつ少女の登場で
私は山高をかるくかぶつて相手役です

少女は静かに私に歩み寄ります
そして

そつと私の肩に手をかける少女と共に
私は眠り――かけるのです

そして次第に夜の花の数がましてくる