2014年3月31日月曜日

レンギョウ


連翹に小雨来るや八つ時分

連翹の奥や碁を打つ石の音        夏目漱石 


散り敷ける花連翹に今朝の雨      星野立子


連翹に落花の風のいたりけり

連翹やたそがれそめし一ところ

庭ざくら連翹もつれ咲きにけり

連翹やかくれ住むとにあらねども    久保田万太郎

2014年3月27日木曜日

蜜吸い


 
暖かい朝。花を見に散歩に出る。
近くのソメイヨシノは、今朝、二分か三分咲きくらい。

ひこばえが真っ先に開花している。
太い幹から、じかに小さい花房が開花しているのを見るのは、
なんともいえず、うれしい。

たくさんのヒヨドリが蜜を吸いに来ている。
蜜吸いと言えばハチドリだが、ここには生息していない。

日本の蜜吸いなら、やっぱりメジロ。
メジロを探したけれど、一羽も見つからない。
冬が厳しかったので、北上が遅れているのか。

かわりに、コガラを発見。
コガラはヤマガラやシジュウカラの仲間で、
そのなかで一番小柄なのがコガラ。

連翹の黄色い花はもうすでに、終わりかけている。

何十年ぶりの日本の春だろうか。
そんなこと、話したって、誰一人、信じないだろう。
 Cien Años de Soledad と同じ、絵空事と思うにちがいない。

あああ。これが春か。
なつかしい、日本の春なのか。
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2014年3月19日水曜日

あの日 311短歌


この海が いつもと違う顔をして
町中のみこみ 静かに去った       新妻愛美
 
黒い波 夫 手を離しのまれゆき
私はワタシは ムンクになった

あまりにも よく似た人を追いかけて
いつまで続く この寂しさは        山崎節子
 
あの道も あの角もなし 閖上一丁目
あの窓もなし あの庭もなし

生と死を 分けたのは何 いくたびも
問いて見上げる三日目の月

かなしみの 遠浅をわれはゆくごとし
十一日の度(たび)の冷たさ

「届かなかった声がいくつもこの下に
あるのだ」 瓦礫を叩くわが声       斉藤梢


寂しげに繋ぎおかれしわが犬を
はなしてやりぬ 生きのびろよと      半谷八重子

差し込まむ 穴無き鍵の捨てられず
流されし家の玄関のカギ 

遺体写真 二百枚見て水を飲む
喉音たてずに ただゆっくりと       佐藤成晃 

鍵をかけ 箱にしまったあの頃を
掌で包み 生きるこれから          渡邊穂 


いつ爆ぜむ青白き光深く秘め
原子炉六基の白亜連なる

廃棄物は地元で処理だ? ふざけるな
最終処分場にされてたまるか        佐藤祐偵

 ひるがえる 悲しみはあり三年の
海、空、山なみ ふるさとは 青

ふるさとを 失いつつあるわれが今
歌わなければ 誰が歌うのか        三原由紀子

尾形亀之助 ③

                                   
                 尾形亀之助(1900-1942)

無題詩
昨夜 私はなかなか眠れなかつた
そして
湿つた蚊帳の中に雨の匂ひをかいでゐた
夜はラシヤのやうに厚く
私は自分の寝てゐるのを見てゐた

それからよほど夜るおそくなつてから
夢で さびしい男に追はれてゐた



うす曇る日  

私は今日は
私のそばを通る人にはそつと気もちだけのおじぎをします
丁度その人が通りすぎるとき
その人の踵のところを見るやうに

静かに
本のページを握つたままかるく眼をつぶつて
首をたれます

うす曇る日は
私は早く窓をしめてしまひます




小石川の風景詩


電柱と
尖つた屋根と


灰色の家



新らしいむぎわら帽子と
石の上に座る乞食

たそがれどきの
赤い火事



情慾
何んでも私がすばらしく大きい立派な橋を渡りかけてゐました ら――
向ふ側から猫が渡つて来ました
私は ここで猫に出逢つてはと思ふと

さう思つたことが橋のきげんをそこねて
するすると一本橋のやうに細くなつてしまひました

そして
気がつくと私はその一本橋の上で
びつしよりぬれた猫に何か話しかけられてゐました
そして猫には
すきをみては私の足にまきつこうとするそぶりがあるのです


小さな庭            
     
もはや夕暮れ近い頃である
一日中雨が降つてゐた
泣いてゐる松の木であつた

雨日

午後になると毎日のやうに雨が降る
今日の昼もずいぶんながかつた
なんといふこともなく泣きたくさへなつてゐた

雨の祭日

雨が降ると
街はセメントの匂ひが漂ふ

雨が降る

夜の雨は音をたてゝ降つてゐる
外は暗いだらう
窓を開けても雨は止むまい
部屋の中は内から窓を閉ざしてゐる


2014年3月16日日曜日

花月の夜

徳冨蘆花(1868-1927)


戸をあくれば、十六日の月桜のにあり。空色くしてみ、白雲団々

月にきは銀の如く光り、遠きは綿の如くらかなり。
春星よりもに空をる。微茫月色、花にじて、

なる枝は月をしてほのく、
なる一枝は月にさし出でゝほの白く、風情言ひし。
き影と、き光は、落花点々たる庭に落ちて、地を歩す、ながらむのあり。
浜のを望めば、砂洲茫々として白し。何処やらに俚歌ふ声あり。     

にして雨はらはらと降りぬ。やがてまたみぬ。
春雲めて、ほの白く、桜花として無からむとす。







2014年3月8日土曜日

桜の句、歌


●「夜桜」というものが昔はあったそうな。
夜の闇の中に咲いている、やわらかほの白い桜。
日本人が失ってしまった、最も大切なものの一つ、「闇」(やみ)。
ライトアップなどというものが存在しなかった昔の春夜は、
どんなにか、情緒あふれるものだったことだろうか。      山田 

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 やすらへば手の冷たさや花の中   岡本浜浜
 


花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ

娘(こ)がいねば夕餉もひとり花の雨    杉田 久

 


行き暮れて木の下蔭を宿とせば花や今宵の主ならまし       薩摩守 忠度


わが胸をのぞかば胸のくらがりに桜森見ゆ吹雪きゐる見ゆ 
 
咲き重なる花の奥なる花のいろ更にましろく冷えびえとせり
 
しんしんと頭の底にも陽は差してそこも桜の無惨の白さ
 
鬼も花もまさ眼に見えねばめつむりて眼の奥の闇しかと見つむる  河野 裕子  


散るまへの桜の大樹いだかんと河原へゆけば吾を抱く風                       笹井宏之


天空をながるるさくら春十五夜世界はいまなんと大きな時計

警報機鳴るやもしれぬうつし世のさくらのやみのにほふばかりを   永井陽子
  

春風の花をちらすと見る夢は覚めても胸のさわぐなりけり


世の中を思へばなべて散る花のわが身をさてもいずちかもせむ
   
花みればそのいはれとはなけれども心のうちぞ苦しかりける


願はくは花の下(もと)にて春死なむそのきさらぎの望月のころ

                               西行法師   



2014年3月5日水曜日

夜更け


夜更け
目がさめる
また眠ろうとおもうのだけれど
心配でしょうがない
いろんなことが心配で
たまらなくなって
どうしよう、と思うとじっとしていられない
あれもこれも、手に余る
自分の力ではどうにもならない
何もかもわずらわしいことばかりで
こんなに苦しいのなら
もう死んでしまおうと思う
そうやっているうちに
疲れ果ててまた眠る 
そうやってまた朝がきて
朝の光のなかで
コーヒーをいれる
その香りをかいでいると
今日は生きてみようと
またそう思う                    Copyright ©2014RioYamada