2024年4月22日月曜日

『He』2004

 ■2004/11/30 (火) 

                                         山田リオCopyright ©2004RioYamada


そのホームレスの男に会ったのは

ニューヨーク マンハッタンの

ずっと下の方の 東側 道も狭い

豪華でも 美しくもない 一角

そういう街のコーヒーショップで

わたしは コーヒーを飲んだり

雑用や 書き物なんかをしながら

午後の数時間をすごした


彼は コーヒーショップのすぐそば

歩道のすみっこに 彼の全財産である

襤褸包みといっしょに 住んでいた 

つまり そこが 彼の住所だった 

先週の ニューヨークタイムス

ヘミングウェイの 小説 

彼は いつも 何かを読んでいた

彼と私は いつも 何も言わなくても  

二人だけの暗号を 目と目で交わした

そう 彼と私は 同類だったんだ


彼が死んだ日

ニューヨーク市のトラックがやってきて

彼を襤褸包みといっしょに運んでいった

きれいになった 日暮れの舗装道路の上

貧しい人もそうでない人も そこに立ち

お互いに 話したこともない隣人たちが

みんな それぞれ ロウソクを灯して

昨日まで そこに住んでいた

あの ホームレスの男のための

ロウソクの炎が 夜風にゆれているのを

最後の一本が消えてしまうまで

見つめていた  


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