■2004/11/30 (火)
山田リオ
そのホームレスの男に会ったのは
ニューヨーク マンハッタンの
ずっと下の方の 東側 道も狭い
豪華でも 美しくもない 一角
そういう街のコーヒーショップで
わたしは コーヒーを飲んだり
雑用や 書き物なんかをしながら
午後の数時間をすごした
彼は コーヒーショップのすぐそば
歩道のすみっこに 彼の全財産である
襤褸包みといっしょに 住んでいた
つまり そこが 彼の住所だった
先週の ニューヨークタイムス
ヘミングウェイの 小説
彼は いつも 何かを読んでいた
彼と私は いつも 何も言わなくても
二人だけの暗号を 目と目で交わした
そう 彼と私は 同類だったんだ
彼が死んだ日
ニューヨーク市のトラックがやってきて
彼を襤褸包みといっしょに運んでいった
きれいになった 日暮れの舗装道路の上
貧しい人もそうでない人も そこに立ち
お互いに 話したこともない隣人たちが
みんな それぞれ ロウソクを灯して
昨日まで そこに住んでいた
あの ホームレスの男のための
ロウソクの炎が 夜風にゆれているのを
最後の一本が消えてしまうまで
見つめていた Copyright ©2004RioYamada
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