2016年8月25日木曜日

江戸の都都逸 ②


三千世界のからすを殺し
ぬしと朝寝がしてみたい  *ぬし(おまえ、あなた)

がつくほどつねっておくれ 
あとでのろけの種にする

明けの鐘 
ゴンと鳴るころ三日月形の
櫛が落ちてる四畳半

上を思えば限りがないと 
下むいて咲く百合の花

嫌なお方の親切よりも
好いたあんたの無理が

ひぐらしが
鳴けば来る秋わたしは今日で
三晩泣くのに来ない人

こうしてこうすりゃこうなるものと 
知りつつこうしてこうなった

道楽も

酒も博打も女もやらず 
百まで生き馬鹿がいる 

2016年8月5日金曜日

住宅顕信


ポストが口あけている雨の往来

レントゲンの早春の冷たさを抱く

点滴びんに散ってしまったわたしの桜

深夜、静かに呼吸している点滴がある

許されたシャワーが朝の虹となる

雨音にめざめてより降りつづく雨

降れば一日雨を見ている窓がある

歩きたい廊下に爽やかな夏の陽がさす

点滴と白い月とがぶらさがっている夜

「一人死亡」というデジタルの冷たい表示

秋が来たことをまず聴診器の冷たさ

        住宅顕信(すみたくけんしん)(1961-1987)