2016年8月25日木曜日

江戸の都都逸 ②


三千世界のからすを殺し
ぬしと朝寝がしてみたい  *ぬし(おまえ、あなた)

がつくほどつねっておくれ 
あとでのろけの種にする

明けの鐘 
ゴンと鳴るころ三日月形の
櫛が落ちてる四畳半

上を思えば限りがないと 
下むいて咲く百合の花

嫌なお方の親切よりも
好いたあんたの無理が

ひぐらしが
鳴けば来る秋わたしは今日で
三晩泣くのに来ない人

こうしてこうすりゃこうなるものと 
知りつつこうしてこうなった

道楽も

酒も博打も女もやらず 
百まで生き馬鹿がいる 

2016年8月15日月曜日

やめた

               山田リオCopyright©2016RioYamada

価値判断をするのを やめた
もう これからは 期待しない ふりかえらない

だれにも どんなものにも どんなことにも 
世界にも 期待しない
自分にも 他人にも 期待しない
人生に 期待しない 後悔もしない

だれがなんと言おうと ほめられても けなされても
なにかを 約束されても なにも約束されなくても
だれにも どこにも なにに対しても 期待しない
蜘蛛にも 蟻にも 蝶々に 期待しない
どんなものにも 期待しない
奇跡のように なにかいいことがあったら
おどろい よろこんで そして ありがたいとおもう

思い通りにならないとき がっかりしても 後悔しても 怒っても
なに変わらない ただ 悲しいだけ
だから 空の雲を見送るように だまって見送
そして そのまま 通り過ぎ

自分にたいしても 同じこと
自分 ゼニ苔やダンゴムシと 同じ
だから 自分に期待するの もう やめた Copyright©2016RioYamada

2016年8月5日金曜日

住宅顕信


ポストが口あけている雨の往来

レントゲンの早春の冷たさを抱く

点滴びんに散ってしまったわたしの桜

深夜、静かに呼吸している点滴がある

許されたシャワーが朝の虹となる

雨音にめざめてより降りつづく雨

降れば一日雨を見ている窓がある

歩きたい廊下に爽やかな夏の陽がさす

点滴と白い月とがぶらさがっている夜

「一人死亡」というデジタルの冷たい表示

秋が来たことをまず聴診器の冷たさ

        住宅顕信(すみたくけんしん)(1961-1987)