2017年3月30日木曜日

こよいあふひとみなうつくしき



野山さくらが枝に雪降りて花おそげなる年にもあるかな
                                                    
吉野山去年のしをりの道かへてまだ見ぬかたの花を尋ねむ

世の中を思へばなべて散る花のわが身をさてもいづちかもせむ

吉野山やがて出でじと思ふ身を花ちりなばと人や待つらむ

ねがはくは花のもとにて春死なむその如月の望月のころ

                                                               西行法師

行かむ人來む人しのべ春かすみ立田の山のはつざくら花

                                                               大伴家持

いそのかみ古き都を來て見れば昔かざしし花咲きにけり

春霞たなびく山の桜花 うつろはむとや色かはりゆく 

                                                              詠み人知らず

清水へ祇園をよぎる桜月夜今宵逢ふ人みなうつくしき                     
                      
                                       与謝野晶子

わが胸をのぞかば胸のくらがりに桜森見ゆ吹雪きゐる見ゆ

かすかなる風ある空かさくらばな雪片のごともしばし宙舞ふ

しんしんと頭の底にも陽は差してそこも桜の無惨の白さ

花朽ちて沈みてゆきし野の井戸の無明無の水深想ふ

                                    河野裕子  

2017年3月29日水曜日

花冷え

 花冷えの雨のひときは濡らすもの 

花冷えの閉めてしんかんたる障子 

花冷えのみつばのかくしわさびかな

花冷えのうつだけの手はうちにけり

花冷えのうどとくわゐの煮ものかな
 
                  万太郎

やすらへば手の冷たさや花の中
                  岡本松浜

命二つの中に生きたる桜かな

さまざまのこと思い出す桜かな
                  芭蕉


 

2017年3月26日日曜日

今日から春

今日から春。
なぜかというと、冬の間、姿が見えなかった
アダンソンハエトリグモが、
今朝、無事に、再登場したから。
場所はキッチン。暖かいところを選んで、ということか。
去年と同一個体かどうかは、不明。
あるいは、ぼくの友達のアダンソン君の子孫かも。
なにはともあれ、よかった、よかった。

2017年3月21日火曜日

ミモザ



                    山田リオ
 

ミモザを思い出すとき、その後ろに見えるのは、マルホーランド・ドライヴだ。
ハリウッドとヴァリーを分ける低い山脈、というほどでもない、丘の上を行く尾根道、片側一車線の狭い道。
ところどころに、ちょっと車を止めて休むところがあって、そこに、かならずと言っていいほど、黄色いミモザが咲いていた。
そういえば、マルホーランド・ドライヴという映画があったな。
よく通った尾根道、南カリフォルニアの陽射し、青い空、ミモザ。
さっき、それを、一ぺんに思い出した。
すっかり忘れていたが、今朝の日差しが思い出させてくれた。

2017年3月19日日曜日


鶯の根岸の里や蜆汁

鶯の来ぬ春の日となりにけり

                正岡 子規 (1867 - 1902)

2017年3月6日月曜日

あんしん

                     山田リオCopyright©2017RioYamada
しょうがくせいのとき
くらくなってから でかけて
ちかくの いけにいった

そこは ひるま ひとりで くちぼそをつったり
アメンボが すいめんをすべるのをみたりする
おきにいりの すきなばしょだった

このひは よるになってから いけにいった
いけのそばで しゃがんでいた
まっくらな いけのほうから カモのこえがきこえた

みんな ちいさいこえで はなしていた 
「おい」「いるか」「いる」「よし」
「ここ」「だいじょぶ」「いる」「うん」

そんなふうに みじかいことばで 
「ここ」「げんき」「いる」「うん
「ねたか」「おきてる」「うん」「だいじょぶ」

すこしだけ なにもきこえなくて で また
「おい」「なに」「だいじょぶ」「うん」「いっしょ」
「あんしん」「うん」「いっしょ」「あんしん
ちいさいこえで きれぎれに 

さむくなってきたから かえろうとおもった
たって いけをみたけど なにもみえない
くらいみちを だまって ひとり あるいた
かもは あんしん
かもは あんしん
ぼくはだまって ひとりあるいた Copyright©2017RioYamada