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2016年3月5日土曜日

夢織り

rio yamada photo 
 


夢織り            木村信子

朝から一日草汁を絞っている
きりきり捩じって毒の匂いを嗅ぎ分けながら
指を青く染めながら
滲じんでくる血と見くらべながら

真夏の森で
森とおんなじ色になって
今わたしは風になっている
さわさわ自分の大きさに途惑いながら
やわらかいって気持ちがいいね
骨の痛みしか知らなかったからくすぐったい
みどり色って血の色なんだね

ふっと向こう側に置いてきた自分の影がさして
手をのばすと
どうしてもとどかない指先の熱さが森を焼きつくして

向こう側の私が紅色になってこっちをふりむく

2011年7月8日金曜日

あの町

                             木村信子
自転車に乗って家を出た    
野良ではまだ近所の人達が働いていたがあたりはもううす暗かった    
わたしは誰にも声をかけられないようにうつむいたままぺたるを強く踏んだ    
わたしはあの町へ行くのだ    
追い剥ぎの森を通り    
すすきの原を通る頃はもう夜だろうから    
自転車はその辺にあずけておけば弟が取りに来てくれるだろうから    
電車に乗って行こうと駅をさがしたが見あたらないので    
きいてみたらこの村には駅などないと言う    
そんなはずはないのだ    
この村はわたしの生れ育った村でわたしは前にも駅から電車に乗って
あの町へ行った事があるのだから    
自転車を押して歩いていると    
たのしかったわねえという声がして    
可愛いこどもが二人走って来た    
見たことがないこどもなので    
この村に遊びに来たのときくと    
ここはあの町よと不思議そうにわたしをじろじろ見た    
するとこどもの頃のわたしがあの町へ遊びに行ったまま帰らなかったことに     
気がついて    
早くさがしに行かなければと思って    
それから大人になってからのわたしは一度もあの町へ行った事がないのに
気がついて    
おかあさんおかあさんと泣いているこどもの頃のわたしの声がきこえてきて    
それを追いかけても追いかけても追いつけないで    
わたしはどこまで行ってもこの村から出られないようだ

2011年5月15日日曜日

はちみつのあきびんの中

                      木村信子
はちみつのあきびんの中のお金はだんだんへってゆく    
わたしは外国なまえの菓子パンを食べている    
もうわたしあての電話なんかいく日もかかってこない    
時間はだんだん過ぎてゆく    
わたしが食べているのは    
菓子パンなんかじゃなくて    
もっと哀しく美くしいもの    
とてもとうとく侵しがたいもの    
たしかなことは    
はちみつのあきびんの中のお金がだんだんへってゆくことと    
いまわたしは外国なまえの菓子パンを食べているということ    
からっぽになったはちみつのあきびんへ    
つぎに入れるものをおもいながら