2013年9月11日水曜日

みなも

                         山田リオ

遠い夏の日
竹箒の細い竹を一本抜いて
テグス、いちばん小さい釣り針、赤虫、バケツ
近くの池から始めて
ずいぶん遠出もした
いつも一人で、バスや電車に乗って
狙うのは、手長エビ、タナゴ、クチボソ
家に帰って松藻の水槽に放すと
どんな熱帯魚よりもきれいだった
暑くなれば、橋の下
夕立がくれば、橋の下
そうやって、いつでも
みなもを見ていた
日暮れまで
ゆれる水面を見ていた
水を見ていれば、安心だった
帰りたくない時間
できれば、ずっとそこにいたかった
いい時間
いい日
いい生活
そう、あれはいい生活だった
模型のエンジン機はすこしだけ欲しかったけど
あれは、はじめから、無理な相談 
それ以外には、なにひとつ
失うものも、欲しいものもなかった
限りなくホームレスに近かった
あの、幸福な少年           Copyright ©2013RioYamada



2013年9月8日日曜日

三月兎のように

March Hare

                      山田リオ  
渥美清さんの言葉、
「カバン一つ持って、チョウチョやトンボのように、いつでも好きなところに行けたら」
だっけ?
あれが、頭から離れない。
何度も何度も頭の中で繰り返す。
夜、眠っている間も、容赦なく。       
渥美さんは、すごいなあ。

ルイス・キャロルの「アリス」のなかの「狂ったティー・パーティー」の場面に出てくる気違い帽子屋でも、眠りネズミでもなく、三月ウサギになった気分。


挿絵の、
まさに、あの眼だ・・ 
挙動不審の三月ウサギがカバン一つ持って
どこかへ出かけて行くんだ
眼の焦点が合わない。
行っちゃってる・・  
自由は
本当の自由は、
三月ウサギだけが手に入れられる物なのか。
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