山田リオ
遠い夏の日
竹箒の細い竹を一本抜いて
テグス、いちばん小さい釣り針、赤虫、バケツ
近くの池から始めて
ずいぶん遠出もした
いつも一人で、バスや電車に乗って
狙うのは、手長エビ、タナゴ、クチボソ
家に帰って松藻の水槽に放すと
どんな熱帯魚よりもきれいだった
暑くなれば、橋の下
夕立がくれば、橋の下
そうやって、いつでも
みなもを見ていた
日暮れまで
ゆれる水面を見ていた
水を見ていれば、安心だった
帰りたくない時間
できれば、ずっとそこにいたかった
いい時間
いい日
いい生活
そう、あれはいい生活だった
模型のエンジン機はすこしだけ欲しかったけど
あれは、はじめから、無理な相談
それ以外には、なにひとつ
失うものも、欲しいものもなかった
限りなくホームレスに近かった
あの、幸福な少年。 Copyright ©2013RioYamada
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