■2009/04/15 (水) 「残照」 山田リオ

海は荒れていた
波は渚で砕けたあと
砂の上になめらかにひろがって
一瞬、鏡になった
それは暗くなり始めた銀色の空や
日没のあたたかい光を反映する
あの日、渚に造った砂の城は
今は、どこにもない
あの時、波が洗い去って
きれいになくなってしまったのに
なぜわたしは今になってこんなにも
あの砂の城を守ろうとしているんだろう
空の光が失われてゆくとき
潮が満ちてくる, 風が吹く
海の匂いと
打ち上げられた海草が死んでゆく匂い
ここには、守るべき何物もない
あの砂の城の記憶は、今でも
わたしの中のここに
すこしも変わらずにある
ほかのだれも
それが今ここにあることも
それが一度は、あそこにあったことも
知らない
たとえあの日、それを見た人がいたとしても
砂の城のことを、その人は
あの日に砕けた無数の波と同じように
すぐに忘れてしまっただろう
それならば、人の一生は
砂の城、なのか
もしそうならば、なおのこと
わたしは、砂の城を守りたい
空の光が失われてゆくとき
潮が満ちてくる、風が吹く
人は立ち去り
海鳥は帰っていった
わたしは
わたしの中にある砂の城を
いつまでも守りたいと思う Copyright ©2009RioYamada
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