■2008/08/17 (日)
尾形亀之助(1900~1942)
「無題詩」
夜になると訪ねてくるものがある
気づいて見ると
なるほど毎夜訪ねてくる変んなものがある
それは ごく細い髪の毛か
さもなければ遠くの方で土を堀りかへす指だ
さびしいのだ
さびしいから訪ねて来るのだ
訪ねて来てもそのまま消えてしまつて
いつも私の部屋にゐる私一人だ
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「彼の居ない部屋」
部屋には洋服がかかつてゐた
右肩をさげて
ぼたんをはづして
壁によりかかつてゐた
それは
行列の中の一人のやうなさびしさがあつた
そして
壁の中にとけこんでゆきさうな不安が隠れてゐた
私は いつも
彼のかけてゐる椅子に坐つてお化けにとりまかれた
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「夜の花をもつ少女と私」
眠い――
夜の花の香りに私はすつかり疲れてしまつた
××
これから夢です
もうとうに舞台も出来てゐる
役者もそろつてゐる
あとはベルさえなれば直ぐにも初まるのです
べルをならすのは誰れです
××
夜の花をもつ少女の登場で
私は山高をかるくかぶつて相手役です
少女は静かに私に歩み寄ります
そして
そつと私の肩に手をかける少女と共に
私は眠り――かけるのです
そして次第に夜の花の数がましてくる
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