| 上の蟹は、あのとき頂いたものです |
■2009/11/16 (月)
「形見」 山田リオ
リトル東京には日本人があつまる
多くは高齢の移民の人たち
いくつかの古びた食堂があるなかで
そういう高齢の日系人のために
400円で定食を出している店があって
ぼくはその店で昼食をとっていた
となりのテーブルで定食を待っているおばあさんが
青い紙でなにかを折っているのを見ていると
それはだんだんに出来上がってきて
青い蟹であることがわかったから
「ああ蟹だ」とぼくは言った
そこでおばあさんとぼくは
二人顔を見合わせ笑った
定食がきてそれを食べ番茶をのみ
立ち上がろうとすると
となりのおばあさんが笑いながら
あの青い蟹の折り紙を
ぼくの手に握らせてくれた
お礼を言って蟹を胸のポケットに入れ
もう二度と会わないかもしれない人に
お辞儀をしてから店を出た
胸のポケットの中には青い蟹がいる
わたしは黙ってリトル東京を歩いた
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