2018年7月16日月曜日

遠い渚


ここから波音きこえぬほどの海の青さの
                        
                    尾崎放哉(1885-1926)
                      (おざきほうさい、無季自由律俳句) 
 
いつも、要町にある、もりかずさんの海の絵を思い出す。
あれも、ずっと遠いところで波が砕けているのが見える 
でも、聞こえない Copyright ©2015RioYamada

2018年7月6日金曜日

尾形亀之助

                            (1900-1942)
曇天

遠くの停車場では
青いシルクハツトを被つた人達でいつぱいだ

晴れてはゐてもそのために
どこかしらごみごみしく
無口な人達ではあるがさはがしく
うす暗い停車場は
いつそう暗い

美くしい人達は
顔を見合せてゐるらしい

無題詩

ある詩の話では
毛を一本手のひらに落してみたといふのです
そして
手のひらの感想をたたいてみたら
手のひらは知らないふりをしてゐたと云ふのですと

春の街の飾窓

顔をかくしてゐるのは誰です

私の知つてゐる人ではないと思ふのですが
その人は私を知つてゐさうです

無題詩

から壜の中は
曇天のやうな陽気でいつぱいだ

ま昼の原を掘る男のあくびだ

昔――
空びんの中に祭りがあつたのだ

                                    尾形亀之助(1900-1942)

2018年7月5日木曜日

万太郎 夏の句 再録


ふりしきる雨となりにけり蛍籠(ほたるかご)
亡き人に肩叩かれし衣替え

神田川祭りのなかを流れけり

抜け裏をぬけうらをゆく日傘かな

運不運ひとの上にぞ雲の峰

わが老いの業はねむれず明けやすき

月も露も涼しき永久(とわ)のわかれかな

ひとりむしいかなる明日のくるならむ

短夜の明けゆく水の匂いかな            *短夜(みぢかよ)


       久保田万太郎(1889-1863)

2018年6月25日月曜日

猫 2004

             山田リオCopyright©2004RioYamada 
at 2004 03/11 08:50

人はみんな 人に失望しながら生きていくんだろうか
ある人は 利用するだけの目的で 友達をつくる
ある人は その友達のささやかな成功を憎み ねたむ
ある人は より大きなグループに加わろうとして 友達を裏切り
ある人は 金銭的安定のためだけに 結婚し
ある人は おかまいなしに大きな声で あれこれをしゃべりちらす

そういう人が わたしを失望させるけれど
そういう人に失望するという わたしも
くりかえしくりかえし たくさんの人を失望させながら
自分で自分に失望しながら 生きていくんだろう

でもかりに けっしてわたしを失望させない
そういう人がいたらどうだろうか

きっとその人と 夜が更けるまで語りあって 

疲れたら眠って 目が覚めたら また笑ってさっきの話の続きをしよう
わたしは わたしが好きなもののことを話そう
心屈した時に助け起こしてくれて 

また立って 笑って歩いていけるように 勇気をくれる
そういう わたしのたいせつな物たちのことを話そう

そして その人はきっと
その人がいっしょに暮らしている 猫のことを話してくれるだろう
雨の日に窓の外を見ている猫の 

うしろ姿の輪郭の線のことを
晴れた朝に開いた窓に座って  

一日の初めの うすみどり色の空気の匂いを嗅いでいる
その猫の幸福な表情のことを
ドアのそばでその人を待っているときの 首をかしげた猫の耳や姿勢のこと
呼ばれて返事するときの その猫の声や
柔らかな毛の下の ごつごつした骨のことも
その人のベッドで さっきまで寝ていたけれど
もうむこうに行ってしまった猫が シーツに残したあたたかい手触りのことを
猫のざらざらした薄い舌や ビロードのような掌のことを
硬くとがった柔軟な髭のことを
そしてその猫の 北欧の深い湖のような目の色のことを
くりかえし 話してくれるだろう

もしも そういう人が ほんとうにいたとしたら
わたしは けっして失望することはないだろう
たとえその人にとって わたしがあの猫の何十分の一の価値もなかったとしても
それでも わたしはいつでも微笑んで 心屈することもなく
満ち足りて 生きていけるんだろう
       
Copyright ©2004Rio Yamada
        


2018年6月24日日曜日

そばにいるひと

         山田リオ

なぜぼくが
たとえば あの人の詩ばっかり
何度も何度もくりかえし 読んでいるのか
それは あの人に ある時 
出会ってしまったからで
出会ってからというもの
ぼくが 生きていくなかで 
いつも そばにいてくれて
ぼくが すくわれてきたからで
それは あのひとの詩 ばかりじゃないんだけど

出会ったのは だれに薦められたわけでもなく
じぶんで ひとりで
そのひとと 出会って
それから 読むたびに
つらくなったり かなしくなったり
気持ちが楽になったり たすかったり
そういうことが あってから

きがつけば また読んだり 
あのひとのことを 思い出したり
つまり ああいう いくつかの言葉だけではなく

あのひとが 生きたことや なにもかもが 
ぼくの いきていることの 一部になったのです
Copyright ©2018RioYamada

2018年6月22日金曜日

花芙蓉


花の写真を撮るのは
気がすすまない
でもなぜか
撮った 

この時期は
気持ちが沈むから
それでかな
花芙蓉

花の俳句も
あまり好きじゃない
夏の海も
Copyright ©2018RioYamada         RY

2018年6月20日水曜日

昆虫 2004

■2004/12/16 (木) 昆虫

                山田リオ



ハンミョウ
わたしは、昆虫になりたい
本能という神によってプログラムされ入力された手順に従って
考えることなく、しかし間違いなく設計図のままに行動し
孵化し、脱皮し、変態し、食い、交尾し、繁殖し
短い生をまっすぐに生きて確実に死んでゆく
そういう昆虫になりたい

朝露に濡れた草むらに住むセスジツユムシでもいい
ルビーやエメラルドのブローチのようなハンミョウもいい
水辺の妖精のようなクロイトトンボも
青い空をその体に写し取ったようなヤマトシジミもいい
金色と緑に輝くコガネムシでもいい

昆虫はあまり頭は良くないから
明日の生活の心配で眠れない夜を過ごすこともなく
死への恐怖をながながと想像して苦しむこともない
まわりの虫たちが自分をどう思っているかなど考えたこともなく
ただ、愚かに、今日を生きる

昆虫は過去の記憶をたどることもないから
失敗や失望や裏切りや恨みを疲れ果てた牛のように
何度も何度も胃から吐き戻してまた噛み砕き味わうこともなく
誰が良い虫で正しく、誰が悪い虫で間違っているかなどわからない
餌になる虫が来れば殺して、食う。ただ、生きるために。

短い一生をすこしも疑うことも迷うこともなく
後悔も不満も嫉妬も優越感も成功も失敗もなく
愚直に、しかし全力で、まっすぐに
あっという間に走り抜ける
あの昆虫になれたら。 Copyright ©2004RioYamada

蝶


ムラサキシジミ
完璧な 無私
蝶は 

自分が 美しいことを
知らない 
ただ 林の中に消えて行く

      ジャック・ケルアック(1922 – 1969)
      訳:山田リオ 

2018年6月16日土曜日

尾崎放哉 


一日物云はず蝶の影さす

               尾崎放哉(1885-1926)

         (おざきほうさい、無季自由律俳句)

2018年6月15日金曜日

梅雨寒


どっちみち梅雨の道へ出る地下道

                        池田澄子(1936~)



************************************************
タカラモノ。
写真は、子供の頃、祖父に貰ったガラスの文鎮です。
直径、約6cm。
祖父が何時、どこで手に入れたかは知りません。 やまだ

2018年6月10日日曜日

鐡齊

須耐煩書

「須く煩に耐うべし」(すべからくはんにたうべし)

「面倒なことでも、我慢してやりなさい」

                   大正十年一月 八十六歳 

 鐡齊錬 (富岡鉄斎 1837-1924)

2018年6月7日木曜日

放哉

https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhjDbkI72Ccv1Tvf6W09hu0zSL9y8dTv4ovKJsqs1EVpc_80uVZBwZHkIF8Pa5mv7It9i6ve1f7dZ_eWXUabkuoJPKwCNtaVP-p4YDlBKs9g5nFjYcVZUwMmd8eeKAsGBnmcRnSmtvxdYmq/s200/spiderDoingFine+-+%25E3%2582%25B3%25E3%2583%2594%25E3%2583%25BC.jpg 
蜘蛛もだまって居る私もだまって居る


              尾崎放哉(1885-1926)

    

2018年5月30日水曜日

八木 重吉 ④

悲しみ

かなしみと
わたしと
足をからませて たどたどとゆく

草をむしる

草をむしれば
あたりが かるくなってくる
わたしが
草をむしっているだけになってくる

雨の日

雨が すきか
わたしはすきだ
うたを うたおう

虫

虫が鳴いてる
いま ないておかなければ
もう駄目だというふうに鳴いてる
しぜんと
涙がさそわれる

水や草は いい方方である

はつ夏の
さむいひかげに田圃がある
そのまわりに
ちさい ながれがある
草が 水のそばにはえてる
みいんな いいかたがたばかりだ
わたしみたいなものは
顔がなくなるようなきがした

雨

雨は土をうるおしてゆく
雨というもののそばにしゃがんで
雨のすることをみていたい

                        八木 重吉(1898 - 1927)

2018年5月7日月曜日

万太郎


東京に江戸のまことのしぐれかな

何がうそでなにがほんとの露まろぶ

ぬけうらを抜けうらをゆく日傘かな

おもかげをしのぶ六日のあやめかな

こしかたのゆめまぼろしの花野かな

一生を悔いてせんなき端居かな

余命いくばくもなき昼寝むさぼれり

すべては去りぬとしぐるる芝生みて眠る

           久保田万太郎(1889-1963)

2018年5月4日金曜日

よかったら

川口有美子さんの、
難病ALSについてのラジオ対談番組の録音を
「おきにいり」に掲載しましたので、
よかったら聴いてみてください。     やまだ

2018年5月3日木曜日

ねむい

         山田リオ   
風の強い晩に
永い間 沈黙していたアレが
いきなり また 話し始めた
なぜかは しらない
ただ ねむい

2018年4月30日月曜日

なにもしないで

Do Nothin' Till You Hear from Me
(わたしが言うまでなにもしないで)

歌:エラ・フィッツジェラルド
テナーサックス:ベン・ウェブスター
ヴァイオリン:スタッフ・スミス
1956年録音

ベンはいろいろ聞いたけど、これが一番好き。
スタッフ・スミスは、ぼくがNYハーレムのジャズ学校に行ってたときに、
だれかが教えてくれた。今でも大好きなヴァイオリニスト。

2018年4月22日日曜日

狂う


・・・そしてわたしは一生の間、
わたしが惹かれた人たちの後を追いかけて、
酔っぱらいみたいに、よろよろ歩きながら生きてきた。
わたしが惹かれたのは、狂った人たちだった。
狂ったように生き、狂ったように語り、
狂ったように救いを求め、すべてを飢えたように願い、
同時に、そのひとたちは、けっしてあくびなんかしないし、
みんなが言うようなことは絶対に言わない。
ただ、燃える、燃える、燃える、燃える、
ローマ時代の黄色いロウソクが
宇宙にむかって爆発するように・・・
      ジャック・ケルアック(1922 – 1969)
      訳:山田リオ  

2018年4月21日土曜日

Orchid


少なくとも五年ほど 葉っぱだけで
なんだかわからず
ほったらかしておいたのですが
気がついたら 先日 
花が咲いていました
大きな花
蘭 だということはわかります
何という蘭かは 知りません
             やまだ

2018年4月17日火曜日

おやすみ

 「人生は、喜びに溢れた悲劇だ」 
           バーナード・マラマッド(ユダヤ系アメリカ人)

**********************
 体調がイマイチなので、しばらくお休みします。
まだ生きているので、だいじょぶです
                 やまだ

2018年4月15日日曜日

夜の雨 2004

■2004/11/22 (月)

今晩は雨ですので、特別に掲載しました)

 今晩は雨で、さっき、外を見たらまだちゃんと雨が降っているので、非常に心が落ち着きます、そして雨がうれしくて眠る気にならないので、もうしばらく起きていることにします。

 損と得、ほめられるのと悪口言われること、楽しいことと苦しいこと、好きと嫌い、嬉しいのとイヤナの、全てのことには両方があって、でも、どれもがずっと変わらずにあるのではなくて、全部がかならず変わります、全部がかならず消えます、なくなります。

いいことも悪いことも、体も心も、それ以外のすべて、なにもかも、あらゆることも、あらゆる物も、すべてが、いつかかならず変化し、消えてなくなります。

今生になにも願わず、執着せず、そして来世なんてものにも期待せず、望まず、自分にも他人にも誰にも、何一つ望まず、ただ生きて、そして死んでゆく。
そういうふうになれたら、なんてことを考えています。    
                        
                       
■2004/11/22 (月)  Copyright ©2004RioYamada     

 山田リオ

電気の消えた部屋の
窓の外からは
雨の降る音が聞こえてくる
あたたかいベッドの中に横たわって
雨の降る音を聞いている
それは
無数の雨粒が
空の高いところから落下してきて
それぞれの粒が
屋根土石植物水家ガラス
いろんなものの上に落ちて
そしてそれぞれが雨粒から
水というかたちに戻る音なのだが

そうやって聞いていると
わたしが
野の獣や鳥になったような気持ちがする
なんとかして濡れないように
暗い夜のなかで
それぞれの場所でうずくまって
生きようと
朝の光を震えながら待っている
朝が来て
まだ生きていれば
夜の間に降ったきれいな水を飲むことだってできる

あたたかいベッドのなかに横たわって
雨の音を聞いていると
いつかホームレスになる日のことを
想像する
ホームレスになったら
やっぱり
野の獣や鳥のように
真っ暗な空を見上げ
とこか安全なやさしい樹木の陰で
雨に濡れてうずくまり
自分を抱きしめながら
朝が来ることを祈るんだろう
そして朝がきたら
木の葉なんかにたまった雨水を飲んで
陽光に光る梢を見上げながら
なにかに
朝まで生きられたことを
感謝するんだろう
  
                                             Copyright ©2004RioYamada

 

"Night Rain"    Rio Yamada
                   
From outside the windows
Of this dark, quiet room
I can hear the sound of falling rain

Lying on the warm bed
Listening to the sound of the falling rain
The sound of countless raindrops
Falling from a very high place in the sky
After traveling a vast distance and then

Each drop will hit various things on earth
Such as roof, soil, stone, plant, water or glass
Then, all going back to the original form of water

As I listen, lying in the warm bed
I feel as if I became a wild animal or a bird
Trying not to get wet, crouching 
Trying to stay alive, waiting all night 
And if and when the morning comes, and if I am still alive
I might be able to even drink clear rain water

As I keep on listening to the sound of the falling rain
I imagine the day that I will become homeless
And if I become a homeless 
I will probably find a safe place under a kind tree
Still getting wet, but crouching and hugging myself
Praying for the morning to come  

If the morning really comes
I will maybe lick water off wet tree leaves
Looking up to the treetops glistening in morning sunlight
I shall probably thank something
For being able to have lived
Through the night rain.
                               Copyright ©2004RioYamada
 

2018年4月12日木曜日

若葉


花衣ぬぐやまつわる紐いろいろ

               杉田久(1890-1946)


2018年4月2日月曜日

なにもしないで

Do Nothin' Till You Hear from Me
(わたしが言うまでなにもしないで)

歌:エラ・フィッツジェラルド
テナーサックス:ベン・ウェブスター
ヴァイオリン:スタッフ・スミス
1956年録音


詩日記: 葉桜

詩日記: 葉桜

2018年3月25日日曜日

西行



Copyright © 2018Rio Yamada
わきて見ん老木は花もあはれなり
今いくたびか春にあふべき

たぐひなき思ひいではの桜かな
薄紅の花のにほひは

                     西行

           老木(おいき)     
           薄紅(うすくれなゐ)

2018年3月23日金曜日

勝利 再掲載

■2006/02/09 (木) Vitoriosa

Vitoriosa
                  Vitor Martins

ブラジル現代の詩人、ヴィトル・マルティンスの詩、「勝利」です。
この詩には、イヴァン・リンスが曲を書き、歌い、CDアルバム「CANTANDO HISTORIAS」に入っています。
でも、日本語訳では、美しいブラジルの言葉の響きが、すべて失われてしまうのが残念です。
どんな詩でも、詩は、戯曲と同じように、できれば原語で、声に出して読んで、初めて意味を持つものなんだと思います。

*************************************************************

「勝利」  
         ヴィトル・マルティンス、訳:山田リオ

あなたの、気持ちのよい笑い声が欲しい
あなたは、それをどうやって見つけたのか
そう、人生は、素晴らしい物であるはずだ
人生は、素晴らしい物であるはずだ

あなたの、めちゃくちゃな明るさが欲しい
何一つ持っていないことが、勝利だ
それを学ぶことの苦痛も、喜びも

あなたが持つ、わずかな純潔が欲しい
あなたが持つ、狂気の自由が欲しい
過ぎ去って行くことへの、強い意志が欲しい
あなたの限界と
そして、あなたが行ったあとに残された航跡が
欲しい

(All rights reserved 、2006Rio Yamada
このHPの全ての記事は著作権法によってコピー、転載を禁止されています。)

2018年3月21日水曜日

西行


なにとなく春になりぬと聞く日より
心にかかるみ吉野の山
                    西行法師

2018年3月6日火曜日

These Foolish Things

「こんなつまらない物たちが」  
         歌詞:エリック・マシュウィッツ(1901 –  1969、英国)
                         訳:山田リオ     

もう ひとりにしてほしい
わたしを自由にしてほしい
私達をつなぎ止めていたものは
今もまだ 二人のまわりにあって
わたしには 出口が見えない
あんな小さな つまらない物たちが
今もわたしに 幸せや痛みを与える

口紅の付いたタバコの吸い殻
どこか素敵な場所へ行く航空券
そしていまも私の心には翼があって
こんなつまらない物たちが
わたしにあなたを思い出させる

隣のアパートから聞こえてくる ピアノの音
切れ切れの言葉でにあなたに伝えた わたしの気持ち
公園の ペンキを塗ったブランコ
そんなつまらない物たちが
わたしにあなたを思い出させる

あの日あなたはやって来て わたしを征服した
そのとき わたしは運命のことを思った
三月の風が わたしの心をダンサーに変えた
電話が鳴る でも今は 誰も答えない
あなたの幻は まだ消えないで
こんなつまらない物たちが
わたしにあなたを思い出させる

早咲きの水仙の花 長文の心躍る電報
小さなコーナーテーブルの ロウソクの炎
そして今でも わたしの心には翼があって
こんなつまらない物たちが
わたしにあなたを思い出させる 

教会の鐘が聞こえていた 夕暮れの公園
カモメが群れていた セーヌの川岸
美しかった春
そんなつまらない物たちが
わたしにあなたを思い出させる

なんて不思議 なんて素敵
いまこんなふうにあなたに会えるのは
わたしをやさしい気持ちにしてくれる
わたしの大切な物たちが
あなたをそばに連れてきてくれる

からっぽの夜更けの駅で聞いた
機関車の蒸気の音
ダンスパーティーの招待状のそばに
脱がれたままの 絹のストッキング
ああ あなたの幽霊は今もわたしを離れない
こんなつまらない物たちが
わたしにあなたを思い出させてくれる

枕のあたりに漂っていた くちなし香水の香り
1キロでたった7フランだった野イチゴ
そして今も 私の心には翼があって
こんなつまらない物たちが
わたしにあなたを思い出させる

グレタ・ガルボの微笑みと 薔薇の香り
夜更けにバーが閉まる時の ウェイターの口笛
ビング・クロスビーが歌う あの歌 
そんなつまらない物たちが
あなたを思い出させてくれる

なんて不思議 なんて素敵
いまこんなふうにあなたに会えるのは
わたしをやさしい気持ちにしてくれる
わたしの大切な物たちが
あなたをそばに連れてきてくれる

焚火でくすぶっていた枯葉の匂い 蒸気船の汽笛
 通りを行く恋人たちが 夢見るように歩いて行った
ああ あなたの幽霊は 今もわたしを離れない
こんなつまらない物たちが
あなたを思い出させてくれるCopyright © 2004Rio Yamada

2018年3月3日土曜日

万太郎



久方の空いろの毛糸編んでをり

門の辺の八つ手の霜をおもふかな

しろきものおちて来りぬ去年今年  去年(こぞ)

うつぶせにねるくせつきし昼寝かな

枯野はも縁の下までつづきをり

煮大根を煮かへす孤独地獄なれ

たましひの抜けしとはこれ、寒さかな

雨凍てて来るものつひに来しおもひ

死んでゆくものうらやまし冬ごもり

何おもふ梅のしろさになにおもふ

一生を悔いてせんなき端居かな   端居(はしゐ)

すべては去りぬとしぐるる芝生みて眠る

世に生くるかぎりの苦ぞも蝶生る

冬ごもり閉じてはあける目なりけり

さがす人ここにも見えず走馬灯

こしかたのゆめまぼろしの花野かな   こしかた(来し方)

                    久保田万太郎