2018年3月3日土曜日

万太郎



久方の空いろの毛糸編んでをり

門の辺の八つ手の霜をおもふかな

しろきものおちて来りぬ去年今年  去年(こぞ)

うつぶせにねるくせつきし昼寝かな

枯野はも縁の下までつづきをり

煮大根を煮かへす孤独地獄なれ

たましひの抜けしとはこれ、寒さかな

雨凍てて来るものつひに来しおもひ

死んでゆくものうらやまし冬ごもり

何おもふ梅のしろさになにおもふ

一生を悔いてせんなき端居かな   端居(はしゐ)

すべては去りぬとしぐるる芝生みて眠る

世に生くるかぎりの苦ぞも蝶生る

冬ごもり閉じてはあける目なりけり

さがす人ここにも見えず走馬灯

こしかたのゆめまぼろしの花野かな   こしかた(来し方)

                    久保田万太郎

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