2018年7月21日土曜日

アルヘンティナ

■2007/02/11 (日) アルヘンティナ

              山田リオ
アストルの店の中には
アルヘンティナが充満している

入ってすぐのガラスのケースには、いろいろなパンやケーキが並び
その後ろのキッチンでは、ほかのどんな店でも食べられない
アルヘンティナのビーフシチューや
薄く薄く切ったイギリスパンに、ハムやチーズをはさんで
フライパンで焼き色をつける、あのサンドイッチを作っていて

そこでスペイン語しか話さない女の子たちに挨拶して
フランスパンの生地をぐるぐるねじって棒にして油で揚げて
それに粗い砂糖をふりかけた、ブエノスアイレスのドーナッツや
たっぷり熱いミルクの入ったカフェコンレチェをたのんで

奥の広間に入ると、大画面のテレビでは当然フトボル
つまりサッカーを大声で応援する人たちの声が爆発している
その一方で、チェスをしている人たちもいて
その喧騒に混じって、あのピアツォラの音楽が聞こえてくるから
自分は今、カリフォルニアなんかではなく
まぎれもなく、アルヘンティナにいるんだということがわかる

だからここで、喧騒と食べ物とコーヒーの匂いとこの空気の中で
わたしはアルヘンティナ人でもブラジル人でもなく、
中国人でも、韓国人でも、アメリカ人でもないけれど
そして日本人の知人には、おまえなんかもう、日本人ではないと
そう言われるわたしも、ここ、アストルの喧騒の中にひとり座れば
人生は祭りなのだということがわかる、いや
どんな人間にとっても、人生は祭りなのだということを
もういちど、ここでひとり
自分にむかって、言い聞かせよう。Copyright ©2007RioYamada

(注:アルヘンティナはスペイン語で「或善珍」のことです)


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