吉野秀雄
食はむもの全く絶えしゆふべにて梅干し一つしやぶり水飲む
いまの世に正しき者は貧しなどいひける頃は余裕ありにき
あらし雨そそぐあかつき五時半に声をかぎりの法師蝉一つ
うらなりの南瓜ころがる縁側に日ざしいつしか秋づきにけり
夕餉にはうどん煮るとてその事を朝より待てリわれも子どもも
幻聴と知りつつかなし秋雨のしぶく夜更けにすすり泣く声
暮れ来る部屋に怒りをこらへをり今朝バイブルを読みたりしかば
苦しみて今朝得し金も一日といはず午後にはもはや空しき
*白木蓮の花の千万青空に白さ刻みてしづもりにけり *白木蓮(はくれん)
青空の染めむばかりの濃き藍に*皓さ磨けり*白木蓮の花 *皓さ(しろさ)
しろたへの*白木蓮空にまかがよひ地には影しつ花さながらに
吉野秀雄(1902-1967)
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