2019年4月25日木曜日

よくすべる靴

rioyamada2019
雨の降る中 外出して
駅に向かう 濡れたコンクリートの
階段を 急いで降りているとき
足がすべった
両足が揃って前に上がり
身体が水平になって
そのまま 階段に落ちた

なぜ頭を打たなかったのか
わからない
右肩甲骨打撲
右腰も痛みが残ったが
次の日は 首も痛い 動かせない

そこで
その時履いていた靴を描くことにした
よく滑る靴だ
しかし 靴に罪はない
悪いのは私だ
時間がかかったが だいぶ回復した
あの程度の怪我で済んだのが 
ありがたい 
ほんとうに 運が良い男だ
感謝です             Copyright©2019RioYamada 

尾形亀之助 ⑤

 
雨の祭日

雨が降ると
街はセメントの匂ひが漂ふ

雨が降る

夜の雨は音をたてゝ降つてゐる
外は暗いだらう
窓を開けても雨は止むまい
部屋の中は内から窓を閉ざしてゐる


うす曇る日

私は今日は
私のそばを通る人にはそつと気もちだけのおじぎをします
丁度その人が通りすぎるとき
その人の踵のところを見るやうに

静かに
本のページを握つたままかるく眼をつぶつて
首をたれます

うす曇る日は
私は早く窓をしめてしまひます

無題詩


ある詩の話では
毛を一本手のひらに落してみたといふのです
そして
手のひらの感想をたたいてみたら
手のひらは知らないふりをしてゐたと云ふのですと

無題詩

から壜の中は
曇天のやうな陽気でいつぱいだ

ま昼の原を掘る男のあくびだ

昔――
空びんの中に祭りがあつたのだ



三十になれば――
そんなことを思ひつづけて暮らしてしまつた
一日

ずつと年下の弟にわけもなくうらぎられて
あとは 口ひとつきかずに白靴を赤く染めかへるのに半日もかかつて
何を考へるではなしいつしんに靴をみがいてゐたんだ

そして夜は雨降りだ


                                   尾形亀之助 (1900 - 1942)

2019年4月24日水曜日

Carafe カラフ

Carafe カラフ
(略)

男は横になったまま、客席の方向を見つめている。

カラフが舞台上空から降ろされ、男の身体の近くで止まる。

彼は動かない。

上空から、口笛が聞こえる。

彼は動かない。

カラフは、更に降りてくる。ぶらさがったまま、顔のまわりを動く。

彼は動かない。

カラフが引き上げられ、舞台上空に消える。

木が舞台背景に再び現れる。ヤシの葉が開き、影も再び現れる。

上空から口笛が聞こえる。

男は動かない。

木が引き上げられ、舞台上空に消える。

彼は自分の掌を見る。
              - 幕 -

  「言葉のない劇 一人のためのマイム」 より
 サミュエル・ベケット(1906 - 1989) 訳:山田リオ   

2019年4月16日火曜日

コレクション

                 山田リオ

見上げると 空には 雲があった
ふたたび見上げると 雲はもう そこにはなかった

あの日の朝 あの街で見上げた あの雲は
今は 空のどこにも ないけれど
あの雲は 今もたしかに ここにある

別の日に あの国の あの町で 見上げた あの雲
あの夕方の駐車場の ユーカリの木の上 
空の高いところ あそこにあった あの雲だって 

そうやって集めた いくつもの雲たち
わたしが なにもかも置いて 旅立つ日に
わたしが集めた あのたくさんの雲たちを
わたしは ぜんぶ ちゃんと つれて行こうと思う  
Copyright©2019RioYamada  

2019年4月15日月曜日

運命論


路上で、偶然に出会った猫。
もうたぶん、二度と会わないだろう猫。
いや、ほんとうに偶然だったのか、
それとも、猫とわたしは、出会う運命だったのか。

映画「アラビアのローレンス」の中で、
砂漠で迷ったあげくに生還した Gasim(ガスィム)が言った言葉は、
「では、すべては、すでに、書かれてあったんだ」。
ガスィムは、運命を信じていた。
だが、その後、彼にどんな運命が待っているかを、
ガスィムは知らなかった。

この猫には、どんな将来が待っているのか。
人生は、無数の偶然の寄せ集めなのか。
それとも、何もかも、すでに、書かれてあるのか?
Copyright©2019RioYamada          山田リオ

2019年4月13日土曜日

花を持った人

2016年4月29日金曜日

                       村野四郎(1901-1975)

くらい鉄の扉が
何処までもつづいていたが
ひとところ狭い空隙があいていた
そこから 誰か
出て行ったやつがあるらしい

そのあたりに
たくさん花がこぼれている 

2019年4月10日水曜日

曇りの五月

Rio Yamada photo
           山田リオ
五月はいつも 静かだった
来る日も来る日も 曇りの五月 
ジャカランダの紫色と 空の色 
樹の下の薄闇 やわらかな光
それはたしかに 憶えている

あの町が 遠い遠い場所になった 今
時間が 記憶を 消したらしく

自分があのころ 何を思っていたのか
いくら考えても 思い出せない しかし 

曇りの五月の あの色だけは 
今でも まったく 変わらずに
私のなかの ここにある 
 Copyright©2017RioYamada                                

2019年4月9日火曜日

湯吞み


ぼくといっしょに
地球上をあちこち
うろうろ移動して
永い永い年月月日
暮らした湯吞みだ
朝の緑茶も吞むし
芋焼酎お湯割りも
これじゃないとね
備前焼の湯吞みは
だいじな古い友達

         山田リオ


2019年4月8日月曜日

青空


耳を病んで音のない青空続く

 住宅顕信(すみたくけんしん)(1961-1987)

2019年4月3日水曜日

連翹


わが外にまた人影もなき園のたそがれ時の連翹の花

                                与謝野晶子(1878-1942)

連翹やかくれ住むとにあらねども          

                             久保田万太郎 (1889-1963)

2019年4月2日火曜日

かもめ


人生はただ一問の質問にすぎぬと書けば二月のかもめ

          寺山修司(1935 - 1983)