与謝野晶子 ①
なにとなく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな
舞姫のかりね姿ようつくしき朝京くだる春の川舟
よそほひし京の子すゑて絹のべて絵の具とく夜を春の雨ふる
清水へ祇園をよぎる桜月夜今宵逢ふ人みなうつくしき
いとせめてもゆるがままにもえしめよ斯くぞ覚ゆる暮れて行く春
こころみにわかき唇ふれて見れば冷かなるよしら蓮の露
鳥辺野は御親の御墓あるところ清水坂に歌はなかりき
夕ふるはなさけの雨よ旅の君ちか道とはで宿とりたまへ
京はもののつらきところと書きさして見おろしませる加茂の河しろき
なつかしの湯の香梅が香山の宿の板戸によりて人まちし闇
詞にも歌にもなさじわがおもひその日そのとき胸より胸に
くさぐさの色ある花によそはれし棺のなかの友うつくしき
与謝野 晶子(1878-1942)
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