三千世界のからすを殺し
ぬしと朝寝がしてみたい *ぬし(おまえ、あなた)
あざがつくほどつねっておくれ
あとでのろけの種にする
明けの鐘
ゴンと鳴るころ三日月形の
櫛が落ちてる四畳半
上を思えば限りがないと
下むいて咲く百合の花
嫌なお方の親切よりも
好いたあんたの無理がいい
ひぐらしが
鳴けば来る秋わたしは今日で
三晩泣くのに来ない人
こうしてこうすりゃこうなるものと
知りつつこうしてこうなった
道楽も
酒も博打も女もやらず
百まで生きた馬鹿がいる
ポストが口あけている雨の往来
レントゲンの早春の冷たさを抱く
点滴びんに散ってしまったわたしの桜
深夜、静かに呼吸している点滴がある
許されたシャワーが朝の虹となる
雨音にめざめてより降りつづく雨
降れば一日雨を見ている窓がある
歩きたい廊下に爽やかな夏の陽がさす
点滴と白い月とがぶらさがっている夜
「一人死亡」というデジタルの冷たい表示
秋が来たことをまず聴診器の冷たさ
住宅顕信(すみたくけんしん)(1961-1987)