初鶯。
この春、初めて来た若いウグイス。
薮ウグイス、という呼び方もある。
はじめは、なんの鳥かな、と思う。
聞いていると、どことなく、ウグイスに聞こえないこともないような。
一所懸命、歌おうとするが、なにしろ、ひょろひょろだ。
若気の至り、へたくそ。
まあ、勉強中なんだから。
いろいろやってみるが、なかなかうまくいかない。
春はまだ若い。
ウグイスも、まだ少年だ。
尾形亀之助(1900-1942)
白(仮題)
あまり夜が更けると
私は電燈を消しそびれてしまふ
そして 机の上の水仙を見てゐることがある
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夜の部屋
静かに炭をついでゐて淋しくなつた
夜が更けてゐた
眼が見えない
ま夜中よ
このま暗な部屋に眼をさましてゐて
蒲団の中で動かしてゐる足が私の何なのかがわからない
花冷えの雨のひときは濡らすもの
花冷えの閉めてしんかんたる障子
花冷えのみつばのかくしわさびかな
花冷えのうつだけの手はうちにけり
花冷えのうどとくわゐの煮ものかな
万太郎
やすらへば手の冷たさや花の中
岡本松浜
命二つの中に生きたる桜かな
さまざまのこと思い出す桜かな
芭蕉
ソメイヨシノ、今朝は一輪も開いていなかったのに、
さきほど見たら、もういくつもほころびていました。
(日記の日付は二十日の日曜日になって居ますが、
ここ東京では、この日記を書いたのは二十一日の月曜日です。)
やすらへば手の冷たさや花の中
岡本松浜(しょうひん)1879~1939
リスちゃんと仲良くしていた頃の写真です。
アマンダ・レモンツリーという名前をつけていました。
メスのリスです。
子育ての時期だけはいなくなって、
それが済めば、何もなかったように帰ってきます。
まったく物怖じしないというか、
信頼されていたようです。
黙っていると、どんどん家の中に入ってきます。
野性の獣なので、きっちり線引きして、
「そこまで。」と言えば、
ちゃんとわかって、それ以上は入りません。
アーモンドを食べたら、帰ります。
ぼくの身体に登ってくるし、
外を歩けば、並んで歩くし。
なんだったんだろう、あのリスは。
今となっては、あまりにも遠い。
彼女、元気なのかな・・
PSこのリスの記事は、ほかにもたくさんあります。
ネウソン・サルジェント(ブラジル、1924~)
Agoniza Mas Não Morre
Nelson Sargento(1924~)
訳:山田リオCopyright ©2016RioYamada
サンバは苦しむ
でも死なない
最後の息が止まるまえに
だれかがいつも
サンバを救う
サンバは黒くて、強い
サンバは怖れない
街角で、酒場で、裏庭で
サンバは激しい迫害を受けた
サンバは純粋で
しっかり土に根を張っている
サンバは高貴な隣人だ
サンバは抱きしめる
サンバは包み込む
社会のかたちが変わり
ほかの文化が押し付けられても
サンバは
気にもしなかった
サンバは苦しむ
でも死なない
最後の息が止まるまえに
だれかが
かならず
サンバを救う
あの日 3・11短歌
この海が いつもと違う顔をして
町中のみこみ 静かに去った 新妻愛美
黒い波 夫 手を離しのまれゆき
私はワタシは ムンクになった
あまりにも よく似た人を追いかけて
いつまで続く この寂しさは 山崎節子
あの道も あの角もなし 閖上一丁目
あの窓もなし あの庭もなし
生と死を 分けたのは何 いくたびも
問いて見上げる三日目の月
かなしみの 遠浅をわれはゆくごとし
十一日の度(たび)の冷たさ
「届かなかった声がいくつもこの下に
あるのだ」 瓦礫を叩くわが声 斉藤梢
寂しげに繋ぎおかれしわが犬を
はなしてやりぬ 生きのびろよと 半谷八重子
差し込まむ 穴無き鍵の捨てられず
流されし家の玄関のカギ
遺体写真 二百枚見て水を飲む
喉音たてずに ただゆっくりと 佐藤成晃
鍵をかけ 箱にしまったあの頃を
掌で包み 生きるこれから 渡邊穂
いつ爆ぜむ青白き光深く秘め
原子炉六基の白亜連なる
廃棄物は地元で処理だ? ふざけるな
最終処分場にされてたまるか 佐藤祐偵
ひるがえる 悲しみはあり三年の
海、空、山なみ ふるさとは 青
ふるさとを 失いつつあるわれが今
歌わなければ 誰が歌うのか 三原由紀子
夢織り 木村信子
朝から一日草汁を絞っている
きりきり捩じって毒の匂いを嗅ぎ分けながら
指を青く染めながら
滲じんでくる血と見くらべながら
真夏の森で
森とおんなじ色になって
今わたしは風になっている
さわさわ自分の大きさに途惑いながら
やわらかいって気持ちがいいね
骨の痛みしか知らなかったからくすぐったい
みどり色って血の色なんだね
ふっと向こう側に置いてきた自分の影がさして
手をのばすと
どうしてもとどかない指先の熱さが森を焼きつくして
向こう側の私が紅色になってこっちをふりむく