本
まだ二十代だったころ、仕事でヨーロッパに行った。
たまたま隣りに乗り合わせた日本人の年配の男性と会話がはじまり、
おかげで、退屈することなく、目的地に着いた。
その方は、別れぎわに、持っていた文庫本を下さった。
「読んでみてください」それが、お別れだった。
Mさんというお名前を見返しにメモしたが、
どこのどなたかは、わからない。
本は気に入って、くり返し読み、今では、すっかりぼろぼろになった。
バラバラになりそうなのを、テープであちこち修復しながら、読む。
そして、見返しを見ると、Mさんの名前が書いてある。
その、崩壊寸前の本は、今でも愛読している。 山田
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