山田リオ
ここに住み着いた蜘蛛との付き合いも冬を越して
もうすぐ、春を迎えようとしている
体調5mmの微細な蜘蛛だけれど、見れば安心する
ああ、生きていたんだな、と思う
行動範囲も、ゆるやかにわかってきて
陽のある午前中は窓の近く、そして午後はPCのあたり
夜、風呂場の脱衣場にかけたタオルにとまっていることもある
温かさと、湿度をもとめて移動するようだ
小さい同居人、いや、同居節足動物
いつかいなくなったら、と思う
いなくなるのは、蜘蛛のほうではないかもしれない
それは、人間にも、蜘蛛にもわからない Copyright ©2016RioYamada
2016年2月18日木曜日
尾形亀之助 ⑤
雨の祭日
雨が降ると
街はセメントの匂ひが漂ふ
雨が降る
夜の雨は音をたてゝ降つてゐる
外は暗いだらう
窓を開けても雨は止むまい
部屋の中は内から窓を閉ざしてゐる
うす曇る日
私は今日は
私のそばを通る人にはそつと気もちだけのおじぎをします
丁度その人が通りすぎるとき
その人の踵のところを見るやうに
静かに
本のページを握つたままかるく眼をつぶつて
首をたれます
うす曇る日は
私は早く窓をしめてしまひます
無題詩
ある詩の話では
毛を一本手のひらに落してみたといふのです
そして
手のひらの感想をたたいてみたら
手のひらは知らないふりをしてゐたと云ふのですと
無題詩
から壜の中は
曇天のやうな陽気でいつぱいだ
ま昼の原を掘る男のあくびだ
昔――
空びんの中に祭りがあつたのだ
馬
三十になれば――
そんなことを思ひつづけて暮らしてしまつた
一日
ずつと年下の弟にわけもなくうらぎられて
あとは 口ひとつきかずに白靴を赤く染めかへるのに半日もかかつて
何を考へるではなしいつしんに靴をみがいてゐたんだ
そして夜は雨降りだ
尾形亀之助 (1900 - 1942)
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尾形亀之助
2016年2月6日土曜日
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