2014年8月11日月曜日

夏帽子 2000

                  07/14/2000    山田リオ 
                                       copyright ©2000RioYamada

ユニオン・スクエア・パークに行こうと 家を出た

精神状態が良くない でも 人に会う予定がある

仕方なく外に出ると 思ったより 日差しが強い 

そこで いったん家に戻り 夏帽子をかぶる 

気が重い ゆるゆると六番街を歩く 

粗い麻のシャツを着ているから

風は軽々と布地を通りすぎて行く

頭を陽光に焦がされる恐れもなく

駅まで歩いて6番の地下鉄に乗る

14丁目のユニオン・スクエア駅までの間

帽子は取って 膝の上に置いた


ユニオン・スクエア駅で降り 暗い地下世界から

光溢れる地上へと 階段をゆっくりと登って行く 

明るい世界が 街路樹や車やビルが見えてくると

さまざまな肌の色の 男や女 犬も 歩いている

そういうものを見ながら 階段の終点に到達し

そこで立ち止って 一息入れる


今日は 路上マーケットの日だから

いつもより はるかに 人が多い

手作りの袋物や シャツを売る店

鉢植えの 赤いバラや 黄色いバラを売る店

ルッコラ ローズマリー パクチーが並ぶ店 

全粒粉のサワードウブレッドが並ぶ パン屋

少しだけ 心が軽くなってくる

出かけてきて よかった そう思う


誰かが怒鳴る声 みんな そっちの方へ行く

自分も 人の流れに逆らわないで 移動する

イェロウキャブが 自転車の男に衝突したようだ

運転手は南アジアの人らしく なかなかの饒舌だ

警官がやってくる ますます見物人が群がる

たいした見世物でもないのに 


公園脇のバーに入る 冷房がある 喉も渇いた

ハンカチで汗を拭く ここはブラジル人の店だ

褐色の肌の 野生的な顔立ちの女性に

カイピリーニャをたのむ 焼酎に似たピンガに 

ライムを切って入れ 棒で潰して砂糖を加え 

氷といっしょにシェイクしたカイピリーニャ 


隣の席の男はフェイジョアーダを食っている

フェイジョアーダは 大量の黒豆に肉や内臓 

煮込んだやつを どっさり米飯にかけ 

ニンニクと玉ねぎの油もかけたら 

ライス・アンド・ビーンズ共和国

最強の 豆かけご飯で生きる人は

詩と音楽の力によって生かされる


カイピリーニャを呑み終わって 汗が引いたら

わざわざ ここまで出かけてきた理由を思い出した

そうだ すっかり忘れていた 人に会う予定だった 

横目で 他人の昼食を眺めている場合じゃなかった

すでに 約束の時間を過ぎている


急いで道路を横切って 大きな書店に入る 

三階のコーヒーショップで待ち合わせだ

エスカレーターを降り コーヒーショップに入ると

窓際で手を振っている人がいる

その人のところまで歩いて行って 立ったまま帽子を取り

遅れてきた言い訳をしようとすると

その人は すばやく手を延ばし 

私の手から帽子を奪い取って 自分の頭に載せた

「ナイス・ハット。」そう言って その女性は微笑んだ copyright ©2000RioYamada


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