2024年5月17日金曜日
惑星 2004
山田リオ
グレープフルーツジュースはグラスからあふれ
オレンジ色のコンヴァーティブルは
海岸道路を 西に向かって 時速80マイルで疾走し
バットが硬球を真芯で捉え ボールは空に消えて行き
つまりすべては異常なし 特筆すべき変化もなく
純白のヨットの帆が 水平線に向かって遠ざかり
波の音が聞こえる午後二時の太陽は予定通りに運行し
ボーイングが発進する ジェットエンジンの音
エレキギターの ベースの ドラムセットの音
冷蔵庫の 扉が閉まる音 食洗機が終了する音
トイレのドアが閉まる音 水が勝手に流れる音
卵が割れる音 ワインを注ぐ音 ケチャップを絞る音
コンニャクを踏む音 ポテトを揚げる音
人間が物を食う音 飲む音 話す声 笑う声 叫ぶ声 泣く声
鼻をかむ音 くしゃみの音 咳の音 歯を磨く音 うがいの音
すべての人間が呼吸する音 すべての人間と動物が生きている
音 なんとかして 今日を生き延びようとしている 音
この美しい惑星が あらゆる物を乗せて 自転しながら
宇宙空間を移動していく
音 が Copyright ©2004RioYamada
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2024年5月12日日曜日
なつかしさ
山田リオ
あの街では もうすぐ ジャカランダが咲く
あの頃 好きな珈琲を呑みに あの店に通った
あの国の人たちは 濃くて甘い珈琲を呑む
そしてみんな 珈琲を呑み チェスをした
「後ろを振り返らず 前だけを見て進め」と 人は言う
何かを思い出す それは良くないことなのか
もう会えない 誰かのことを 思い出すこと
立ち止まって 過ぎ去った時を 振り返る
それは ほんとうに 悪いことなのか
日本に帰ってから ジャカランダの苗を植えた
ジャカランダの紫の花は まだ咲かない
あの珈琲と 同じ味の珈琲を出す店は
探して見たけれど まだ 見つからない
もう 二度と会えない あの友人の笑い声
紫の花の下を歩いた 曇りの五月
世界は なつかしさで 溢れている Copyright ©2024RioYamada
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