2021年11月3日水曜日

書籍のことなど

吉田健一の「汽車旅の酒」という随筆集の中の「東北本線」という一章に 

列車で たまたま隣り合わせた 男との 会話が書かれていて

その男の 話の中で アフリカの ブッシュマンという民族は 

土地を 所有する習慣が なかったため

後からやってきた 西洋人に 野生の獣のように 扱われた という

ブッシュマンは 土地を所有することがなく 

自然を 荒らしたりすることもなく

自分たちが 自然の一部として 自然を手なずけ 

飼い慣らしながら 共に生きているのだという

そういう話を 見ず知らずの男から 聞かされる

その中で 吉田健一は ブッシュマンが住んでいるという 

カラハリ砂漠の 夕焼けのことを 書いていて

私は 見たこともない カラハリ砂漠の 夕焼けが 

強く 印象に残っている

この本は いつも 目につきやすい場所に 置いてあって

気が向けば ちょっとだけ読んで また そこに戻しておく

つまり 「汽車旅の酒」 の定位置は 本棚ではない 


気がつけば  電子書籍の書庫には ずいぶん 「本」が増えた

いくら書籍が増えても 電子書籍は 場所をとらない

海外で出版された本でも あっという間に送信されて 読むことができる

といっても それらの本には 実体がないから 「置き場所」もない

本の表紙に 指先で触れて 紙質を感じたり フォントを 味わったり

本を手に取り その 重みや 厚みを 感じることができない

たしかに 電子書籍に 書かれていることを 読むことはできる

しかし 本棚に並んだ お気に入りの本たちの 背表紙を

順繰りに 眼で愛撫していく そういう 楽しみは ない

読みかけのページに 栞を挟んでおくという よろこびもなく

心に残った部分や 自分が好きな 詩のページに 付箋を貼ることもない

だから 電子書庫をたまに開くとき かすかな虚しさを感じるのは

私だけだろうか         山田リオ





0 件のコメント:

コメントを投稿