2016年9月20日火曜日

雨      詩:エンリケ・カディカモ(1900-1999)
          ブエノスアイレス、アルゼンチン 訳:山田リオ

夜は けだるい冷たさでいっぱいで
風が 聞きなれない 悲しい唄を運んでくる
それは まるで 夜の 切れぎれの断片
その影のなかを ゆっくり進む
そして 雨だ
雨は わたしの心臓に刺さる 棘のようだ

このあまりにも冷たい夜は
そのまま私だ 私の中の空虚だ
それをちぎって 捨てて 忘れようとしても
記憶は・・・

雨 悲しみ 一人 舗道の上に凍りついている心臓
氷の冷たさに 忘れていた傷から 雨は滴る
ただ 道に迷って
影の中をさまよう 幽霊のように
雨そのもののように

夜は けだるい冷たさでいっぱいで
道を渡るものは だれもいない
街灯に 照らされて 舗道が光る
そして 私は ただの紙くず
永遠に 一人だということを 
思い出せ

雨滴が 私の心の水たまりに 落ちる
骨に沁みる この 屈辱 苦痛
また 風がやってきて
わたしの背中を 押す・・
  Copyright©2016RioYamada 

《「雨」は、アルゼンチン・タンゴの歌詞です。

2016年9月15日木曜日

グラン・ジュテ

ニジンスキー、「薔薇の精」
「心が変われば、運命も人生も変わる」

「不幸な過去は変えられないが、未来は変えることができる」

「人が回復するのに、締め切りはありません」

「グラン・ジュテは、バレエ用語で『跳躍』という意味です。
私は、人には誰でも必ずグラン・ジュテがあると思ってます。」

「人は、いくつになっても『跳躍』して、変わることができるんだ。」

                 夏刈郁子(1954~) 

2016年9月10日土曜日

あの日 311短歌 再録  

2014年3月19日水曜日

あの日 311短歌


この海が いつもと違う顔をして
町中のみこみ 静かに去った       新妻愛美
 
黒い波 夫 手を離しのまれゆき
私はワタシは ムンクになった

あまりにも よく似た人を追いかけて
いつまで続く この寂しさは        山崎節子
 
あの道も あの角もなし 閖上一丁目
あの窓もなし あの庭もなし

生と死を 分けたのは何 いくたびも
問いて見上げる三日目の月

かなしみの 遠浅をわれはゆくごとし
十一日の度(たび)の冷たさ

「届かなかった声がいくつもこの下に
あるのだ」 瓦礫を叩くわが声       斉藤梢


寂しげに繋ぎおかれしわが犬を
はなしてやりぬ 生きのびろよと      半谷八重子

差し込まむ 穴無き鍵の捨てられず
流されし家の玄関のカギ 

遺体写真 二百枚見て水を飲む
喉音たてずに ただゆっくりと       佐藤成晃 

鍵をかけ 箱にしまったあの頃を
掌で包み 生きるこれから          渡邊穂 


いつ爆ぜむ青白き光深く秘め
原子炉六基の白亜連なる

廃棄物は地元で処理だ? ふざけるな
最終処分場にされてたまるか        佐藤祐偵

 ひるがえる 悲しみはあり三年の
海、空、山なみ ふるさとは 青

ふるさとを 失いつつあるわれが今
歌わなければ 誰が歌うのか        三原由紀子

2016年9月8日木曜日

端唄

夕暮れ

夕暮に 眺め見渡す隅田川 月に風情を待乳山
帆上げた船が見ゆるぞえ アレ鳥が鳴く 
鳥の名も 都に名所があるわいな

有明

有明の灯す油は菜種なり 蝶が焦がれて逢いに来る
もとをただせば深い仲 死ぬる覚悟で来たわいな
気安めかだます心か知らねども 今朝の別れにしみじみと
辛抱せよとの一言が たより無き身の力草
今朝も羽織の綻びを わしに縫えとは気が知れぬ
嫌な私に縫わすより 好いたあの娘に頼まんせ

秋の夜

秋の夜は長いものとはまん丸な 月見る人の心かも
更けて待てども来ぬ人の 訪ぬるものは鐘ばかり
数うる指も寝つ起きつ わしゃ照らされているわいな

永井龍男の句

戸を立てし吾が家を見たり夕落葉

魚 の ご と 栖 ひ て 谷 戸 の 星 月 夜
   
月 島 は 宵 宮 の 雨 が 癖 と い ふ
 
格 子 木 戸 二 月 の 月 の あ る 気 配

橋多き深川に来て月の雨

谷戸谷戸に友どち住みて良夜かな

大船の横町狭し鰻食う   

建前の木遣りが呼びし初雪か

       永井龍男(1904~1990)