2016年1月4日月曜日

尾崎放哉 ⑤


             尾崎放哉(1885-1926)

              (おざきほうさい、無季自由律俳句)
 

師走の夜のつめたい寝床が一つあるきり

起きあがった枕がへっこんで居る

雪を漕いで来た姿で朝の町に入る

雪の戸をあけてしめた女の顔

帽子の雪を座敷迄持って来た

小さい火鉢でこの冬を越さうとする

とはに隔つ棺の釘を打ち終へたり

アノ婆さんがまだ生きて居たお盆の墓道

線香が折れる音もたてない

墓にもたれて居る背中がつめたい

蛇が殺されて居る炎天をまたいで通る

蛍光らない堅くなってゐる

何がたのしみに生きてると問はれて居る

きかぬ薬を酒にしよう

わが顔ぶらさげてあやまりにゆく

笑へば泣くやうに見える顔よりほかなかった

ポストに落としたわが手紙の音ばかり

蚊帳のなか稲妻を感じ死ぬだけが残ってゐる


                       尾崎放
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    放哉を葬る
痩せきった手を合わしている彼に手を合わす             荻原井泉水(1884-1976)


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