尾崎放哉 ⑤
尾崎放哉(1885-1926) (おざきほうさい、無季自由律俳句)
師走の夜のつめたい寝床が一つあるきり
起きあがった枕がへっこんで居る
雪を漕いで来た姿で朝の町に入る
雪の戸をあけてしめた女の顔
帽子の雪を座敷迄持って来た
小さい火鉢でこの冬を越さうとする
とはに隔つ棺の釘を打ち終へたり
アノ婆さんがまだ生きて居たお盆の墓道
線香が折れる音もたてない
墓にもたれて居る背中がつめたい
蛇が殺されて居る炎天をまたいで通る
蛍光らない堅くなってゐる
何がたのしみに生きてると問はれて居る
きかぬ薬を酒にしよう
わが顔ぶらさげてあやまりにゆく
笑へば泣くやうに見える顔よりほかなかった
ポストに落としたわが手紙の音ばかり
蚊帳のなか稲妻を感じ死ぬだけが残ってゐる
尾崎放哉
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放哉を葬る
痩せきった手を合わしている彼に手を合わす 荻原井泉水(1884-1976)
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