2016年1月1日金曜日

歌人鳥居


揃えられ主人の帰り待っている飛び降りたこと知らぬ革靴 

空しかない校舎の屋上ただよひて私の生きる意味はわからず

慰めに「勉強など」と人は言ふ その勉強がしたかつたのです

姉さんは煙草を咥へ笑ひたくない時だつて笑へとふかす

待ち受けの(旦那と子ども)を見やる人 緞帳(どんちょう)あがりポールに絡まる

履いたきり脱げなくなつたと笑ひけり踊り子たちの冷たい裸

ラベンダー遺品となりし枯野にて病みゆく母の怒鳴る声抱く

生きている人より死んだ人ばかりくっきりと見える輪郭の淵

身寄りなき赤子は強く泣きつづけ疲れを知って一人静まる 

刃は肉を斬るものだった肌色の足に刺さった刺身包丁

揃えられ主人の帰り待っている飛び降りたこと知らぬ革靴 

                                                                     歌人 鳥居 

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