歌人鳥居
揃えられ主人の帰り待っている飛び降りたこと知らぬ革靴
空しかない校舎の屋上ただよひて私の生きる意味はわからず
慰めに「勉強など」と人は言ふ その勉強がしたかつたのです
姉さんは煙草を咥へ笑ひたくない時だつて笑へとふかす
待ち受けの(旦那と子ども)を見やる人 緞帳(どんちょう)あがりポールに絡まる
履いたきり脱げなくなつたと笑ひけり踊り子たちの冷たい裸
ラベンダー遺品となりし枯野にて病みゆく母の怒鳴る声抱く
生きている人より死んだ人ばかりくっきりと見える輪郭の淵
身寄りなき赤子は強く泣きつづけ疲れを知って一人静まる
刃は肉を斬るものだった肌色の足に刺さった刺身包丁
揃えられ主人の帰り待っている飛び降りたこと知らぬ革靴
歌人 鳥居
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