2023年6月20日火曜日

ユタの食事

 ■2007/08/07 (火) ユタの食事 


「ユタの食事」
                     山田リオ

ポプラの木の下を 川が流れている

水がたっぷり盛り上がり ところどころ渦を巻いて

川岸の草むらに 溢れ出そうになりながら

流れている 幅五メートルほどの川の

とろりとした 暗色の 冷たい水の深みに

カワマスは きっと いる

わたしは ポプラの木陰にかくれて

カワマスに 見られないように注意しながら

ハリに ミミズをつけ

赤い トウガラシのかたちの 浮きもつけて

そっと 水の中に送り込む

しばらく待っていると あっという間に

糸も浮きも釣竿も みんないっぺんに

川の深いところまで 引き込まれる

やがて 銀色のなかに 虹を秘めたマスが

あきらめたように 青草の上に横たわって

わたしはナイフで まだ生きている魚の腹を裂き

内臓を捨て そのかわり 香草とレモンをつめこみ

持ってきた岩塩を ふりかけ そして

ポプラの枯れ枝で 焚き火をつくる

フライパンに入れたバターが 熱くなるまでの間

さっき 川の流れで冷やしておいた

あの ワインを呑もうと思う

焦げはじめた バターの香り

レモンと 香草の匂い

マスの 皮と肉が焼ける匂い

川の匂い 青草の匂い ポプラの匂い

焚き火の匂い ポプラを吹く 高原の 風の匂い

何もかも すべてをひっくるめた

これが 今日の わたしの食事だ    Copyright ©2007RioYamada


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2023年6月17日土曜日

赤い野球帽

            03/21/2006                                                                          山田リオ

一週間 昼も夜も 激しい雨が降り続いてから 

クリスマスの朝になって 雨が止んだ

雨の中でも ヤマバトは庭に来て 餌を待っている

朝 ガラス窓を叩くのも ヤマバトだ 餌の催促だ


雨の一週間 ハチドリは 一度も姿を見せなかった

赤いルビー色のも 緑の玉虫色のも 現れない

雨音で あの「ブーン」が聞こえなかったわけではなくて

給餌器の砂糖水が 少しも減らないのだ 

毎朝 気をつけているのに 呑んだ形跡がない

小指ほどのハチドリでも 運動量が多い

カロリーが必要で 絶えず蜜を飲まないと 

生きていられない そう思う


雨が止んで 晴れた朝 ドアを開けた 

ジャカランダの木の方から あのハチドリが 

ブーンという羽音を立てて 勢いよく飛んで来た 

雨の間 どうやって生き延びたのか わからない

もしかして ハチドリは こんな長雨の時 

短い冬眠をするのかもしれない と思う

仮死状態になって 命を繋いでいるのか 


今朝もまた ルビー色の きらきら光る あのハチドリが 

ぼくの目の前 30cmの位置で 空中停止している 

ブーン 翼が すごいスピードで羽ばたいていて 見えない

じっとこっちを見ているのは ルビーくん ほんとうは

ぼくがかぶっている 赤い野球帽が 気に入っているのだ  Copyright ©2006RioYamada


2023年6月13日火曜日

でも 貧しい私には 夢しかないのです

私は あなたの足元に 私の夢を広げました

やさしく歩いてください 

あなたは 私の夢の上を歩くのですから

              W.B.イエーツ「葦を吹く風」より 山田リオ訳




2023年6月9日金曜日

大事なことは詩を理解することではなくて、詩を書くことであり、

他人の詩を理解することではなくて、自分の詩を書くことである。

僕らは断じて批評家になってはならぬ。

                石原吉郎 (1915~1977)

© rio yamada