■2007/08/07 (火) ユタの食事
「ユタの食事」
山田リオ
ポプラの木の下を 川が流れている
水がたっぷり盛り上がり ところどころ渦を巻いて
川岸の草むらに 溢れ出そうになりながら
流れている 幅五メートルほどの川の
とろりとした 暗色の 冷たい水の深みに
カワマスは きっと いる
わたしは ポプラの木陰にかくれて
カワマスに 見られないように注意しながら
ハリに ミミズをつけ
赤い トウガラシのかたちの 浮きもつけて
そっと 水の中に送り込む
しばらく待っていると あっという間に
糸も浮きも釣竿も みんないっぺんに
川の深いところまで 引き込まれる
やがて 銀色のなかに 虹を秘めたマスが
あきらめたように 青草の上に横たわって
わたしはナイフで まだ生きている魚の腹を裂き
内臓を捨て そのかわり 香草とレモンをつめこみ
持ってきた岩塩を ふりかけ そして
ポプラの枯れ枝で 焚き火をつくる
フライパンに入れたバターが 熱くなるまでの間
さっき 川の流れで冷やしておいた
あの ワインを呑もうと思う
焦げはじめた バターの香り
レモンと 香草の匂い
マスの 皮と肉が焼ける匂い
川の匂い 青草の匂い ポプラの匂い
焚き火の匂い ポプラを吹く 高原の 風の匂い
何もかも すべてをひっくるめた
これが 今日の わたしの食事だ Copyright ©2007RioYamada
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