|
rio yamada photo |
すべてを失った後 わたしたちはもう一度出会う
この世界でただひとつの喜びは 始めるということだ
チェザーレ・パヴェーゼ(1908~1950 イタリアの詩人)
山田リオ訳
|
rio yamada photo |
リンゴを食べた後に残った部分は
ドーナッツの中心部分に似ている
人が立ち去った後には何が残るか
冬の朝陽の中でじっと考えている
山田リオ
眠るときも 醒めているときも
一日中 いつでも 常に
そのことから 眼をそらさぬこと
いつもいつでも 笑うときも泣くときも
自分が 必ず 滅びることを
自分の肉体も心も いつか滅びることを
忘れず 眼をそらさず
見つめ続けること
それが 生きるということ
山田リオ
|
rio yamada |
びっくりするようないいことに
出会うことが たまにある
そういう いいことに出会うには
死なないで 生きていればいいんだ
はんぶん ねていたって いいんだ
ただ 生きてさえいれば いいんだよ
山田リオ
|
by E.K. |
たとえそれが ある日 全て失われ
無に帰する と わかっていても
それでも
己れに生ある限り
忘れ得ないものを
山田リオ
|
rio yamada photo |
不思議な心の痛み
懐かしさのあまり 死ぬということ
まだ見ぬものを 決して経験しえないことを
懐かしみ あこがれるあまり
死ぬ ということ
アレッサンドロ・バリッコ(1958~)
訳:山田リオ
|
rio yamada |
走っても走っても追いかけてくるもの
気がつくともう背中の後ろにきている
どんなにはやく逃げても逃げきれない
でも逃げるのをやめられないので走る
山田リオ
夢の戸を閉め忘れたる朝と思ふ 筆立てに筆いつぽんもなし
笹井宏之(1982~2009)
|
Keiji I. photo |
|
rio yamada photo |
遠くから
焼き芋売りのおじさんの 声が聞こえたので
外に出て 走って追いかけて追いついて
路上で すこし立ち話をしてから
焼き芋を買った 小雨の降る寒い晩
熱い熱い焼き芋 うれしい焼き芋を
うす茶色の紙で 包んでくれる
それを持って 走って家に帰るまでに
両手だけは あたたかくなった
でも 耳も顔も まだつめたい
急いで食べよう 今すぐ食べよう
あたたかい 焼き芋
山田リオ
|
rio yamada |
今日一日だけは
無言で暮らそう
誰にも会わない
空気を読まない
世間話もしない
そういうふうに
静かに暮らそう
今日だけでいい
それができたら
どんなにいいか
山田リオ
「年齢なんて無意味だ。ただし、あなたがチーズなら別だが。」
「アペリティフ(食前酒)の衰退は、われわれの時代における最も憂慮すべき現象だ。」
ルイス・ブニュエル(1900~1983) 翻訳:山田リオ
|
Rio Yamada |
|
rio yamada photo |
私はここに、私が知らないことを
すべて、ひとつ残らず持っている。
ひとつも、なくしてはいないんだ。
W.S.マーウィン(1927~2019)
|
rio yamada photo |
雨の朝
ざくろを割ってみた
いい感じに 熟れている
食べてみた
一粒づつ 指でつまんで 口に入れる
甘さ 酸っぱさ 朝の冷たさ 秋の味
ただ この作業は 止まらなくなる
次から次に ひとつぶ ひと粒
食べて 味わって 種を出し またつまむ
やめられないのが 困ります
そのうえ 深紅の粒々をつまんだ指先が
黒くなるのも困ります
山田リオ