2016年5月27日金曜日

山崎方代 ②


 ©2016RioYamada
ふるさとを捜しているとトンネルの穴の向こうにちゃんとありたり

あきらめは天辺の禿のみならず屋台の隅で飲んでいる

まっ黒いさくらの花がぽたぽたと散りあらそへり瞳(め)は盲てゆく

なるようになってしもうたようである穴がせまくて引き返せない

新聞紙に腰をおろしてからっぽの頭の先を陽に干している

人間はかくの如くにかなしくてあとふりむけば物落ちている

鬼のようにしゃがんでいるとまた一つ銀杏の実が土を鳴らせり

もう何も申し上げません夜は早く灯を消して眠るにしかず

こともなくわが指先につぶされしこの赤蟻の死はすばらしい

耳もとでささやいているずっしりと小屋を囲んで雪が止んでいる

日が昇って来るなりこくいっこくのせまり来る死ぞ

                山崎方代(1914-1985)

2016年5月16日月曜日

安住 敦 ②


雨降ってゐる金魚玉吊りにけり

世にも暑にも寡黙をもって抗しけり

蝉しぐれ子の誕生日なりしかな

また職をさがさねばならず鳥ぐもり

ひやびやと日のさしている石榴かな

鳥渡る終生ひとにつかわれむ

花柳章太郎よりとどきたる切子かな

職替えてみても貧しや冬の蝿

留守に来て子に凧買ってくれしかな

雪の降る町といふ唄ありし忘れたり

             安住 敦(あずみ あつし、1907-1988)

2016年5月6日金曜日

耳を通じて


心がうらぶれたときは 音楽を聞くな
空気と水と石ころくらいしかない所へ
そっと沈黙を食べに行け! 遠くから
生きるための言葉が 谺してくるから。

          清岡 卓行(1922- 2006)