村野四郎(1901-1975)
くらい鉄の扉が
何処までもつづいていたが
ひとところ狭い空隙があいていた
そこから 誰か
出て行ったやつがあるらしい
そのあたりに
たくさん花がこぼれている
テント小屋冬はそのまま冷蔵庫捨て弁当も腐りません
坪内政夫
途方もなく空広かりきリュック背負い ホームレスの道踏み出ししとき
言ひ値にて雑誌を売りて得たる金三日の命を養ふに足る
宇堂健吉
説教と引き換へに配るパンならば生きる為には説教を聞く
名も知らぬブラジル人のその後を想ひて今朝の寒さに耐へる
親不孝通りと言へど親もなく親にもなれずただ立ち尽くす
公田耕一
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食べ物の賞味期限は舌に聞け
年賀状住所無き身に届かない
公園の闇夜で一人忘年会
パンの耳鳩にやるなら俺にくれ
アルミ缶空を集めて中身買う
プレゼント応募したいが住所なし
春の夜は同じ寝床の猫元気
寝袋に花びら一つ春の使者
お茶一本水で薄めて五本分
炊き出しで嫌いなものが好きになる
(ビッグイシューより)
西条八十(1892-1970)
君がみ胸に抱かれて聞くは
夢の船唄鳥の唄
水の蘇州の花散る春を
惜しむか柳がすすり泣く
花を浮かべて流れる水の
明日の行方は知らねども
今宵映したふたりの姿
消えてくれるないつまでも
髪に飾ろかくちづけしよか
君が手折りし桃の花
涙ぐむよなおぼろの月に
鐘が鳴ります寒山寺
春風の花を散らすと見る夢は覚めても胸のさわぐなりけり
花見ればそのいはれとはなけれども心のうちぞ苦しかりける
風さそふ花のゆくへは知らねども惜しむ心は身にとまりけり
世の中を思えばなべて散る花のわが身をさてもいづちかもせむ 西行法師
詩:加藤周一(1919-2008)
(中田喜直作曲)
春の宵 さくらが咲くと
花ばかり さくら横ちょう
想出す 恋の昨日
君はもうこゝにゐないと
あゝ いつも 花の女王
ほゝえんだ夢のふるさと
春の宵 さくらが咲くと
花ばかり さくら横ちょう
会い見るの時はなかろう
「その後どう」「しばらくねえ」と
言ったってはぢまらないと
心得て花でも見よう
春の宵 さくらが咲くと
花ばかり さくら横ちょう
山田リオ
暁光。朝日。陽光。
斜陽。落日。
夕闇。残照。月光。星月夜。
夜風。雨。
和蝋燭。行灯。菜種油。灯篭。
松明。薪。かがり火。
商店会のピンクの提灯。
白熱電球。蛍光灯。ハロゲン電球。
イルミネーション。LED電球。ライトアップ。
雑踏。音楽。声。ホットドッグ。スパークリングワイン。タバコの吸殻。ゴミ。
静寂。無風。闇夜。無人。花。世界。
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