■2006/01/28 (土) おかえり
「おかえり」
山田リオ
知り合いの、あの猫がいなくなってから
三週間がたちました
それは薄汚れた灰色の雄猫で
夜の散歩のときに、彼は
いつも、あそこの塀の上にいて
逢えばいろいろ話をしたのですが
年が明けてから見えなくなったのでした
昨日の晩、あの塀のそばを歩いていて
あの猫が、きゅうに塀の上に現れました
いつもなら、「どうしたの?」「元気だった?」などと訊き
彼のほうは、「にゅ」とか「ぷ」とか
短い言葉で返事する、そういう対話になるのですが
昨日は、塀の上に伸びたジャカランダの木で
爪をといだり、頬をすりつけたりしてから
ちゃんとわたしの目を見て
かなり長いセンテンスで話をしてくれたのでした
わたしは、猫語がすべて理解できるわけではありませんが
それでも、「また会えて、うれしいよ」という部分と
「明日も来るのかい?」という部分は理解できました
大げさな別れは、好きではありませんから
「じゃ、またね」そう言って背中を向けて立ち去って
曲がり角まで来て、振り返ると
もう塀の上に、あの猫の影はなくて
どこか秘密の場所に帰って行ったのだな
そう思いながら、気持ちがあたたかくなって
わたしも家に帰りましたCopyright ©2006Rio Yamada
2015年10月30日金曜日
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