2015年2月13日金曜日

藤山直樹

花の色染みたる脳の朝寝かな

ゆふざくら逢うてたちまち眠るなり

写真焼く焔むらさき春の暮

猫死んで桜月極駐車場

桜餅餡透けて雨兆すなり

思ひ寝のあと草餅のやはらかき

草餅の雨の匂ひのしてゐたり

梅雨寒や高座布団の芯かたき

薔薇切って空気いきなり濃くなりぬ

衰へて明るき脳や葱の花                                        

さびしさや焼蛤の噴きこぼれ                                          


焼飯の卵おだやか海の家

オルガンの音ずれてゐる暑さかな

蝉の穴鬱の極みも過ぎにけり

病む人の爪透きとほるしらが葱

寒鯉に纏はる水の粘りかな

遠くまで行く切符なり冬の雲

紙ほどの薄さのこゑの冬鴎

抽斗の闇の矩形の寒さかな

                      藤山直樹(1953-)

2015年2月12日木曜日

安住 敦 ①

夕ざくら子の手冷たくわが手にあり
 

しぐるるや駅に西口東口
 

小でまりの愁ふる雨となりにけり
 

梅雨の犬で氏も素性もなかりけり
 

あさがほをだまって蒔いてをりしかな
 

鶏頭を水無き壷に挿して忘る
 

蓑虫の出来そこなひの蓑なりけり
 

柿啖へばわがをんな少年のごとし
 

耐へがたきまで蓮枯れてゐたりけり

            安住 敦(あずみ あつし、1907-1988)

          

2015年2月9日月曜日

猫 (俳句)

 
猫の子のすぐ食べやめて泣くことに
口あけて一声づつの仔猫泣く    

                      中村汀女
 

みごもりて盗みて食いて猫走る
いなずまの野より帰りし猫を抱く  

                      橋本多佳子
 

うららかや猫にものいふ妻のこゑ 
                      日野草城
 

四つ足の堪へるあゆみの仔猫かな 
                      藤後左右
 

叱られて目をつぶる猫春隣  
                      久保田万太郎
 

猫の飯相伴するや雀の子
                      小林一茶
 


露のんで猫の白さの極まるなり
猫と生まれ人間と生まれ露に歩す 

死ににゆく猫に真青の薄原*
                      加藤楸邨  *薄原(すすきはら)

2015年2月5日木曜日

 

雪の降る芝居哀しく美しく 

       初代中村吉右衛門(1886-1954)